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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1326号 判決

原告 トーフレ株式会社

右代表者代表取締役 田代佳行

右訴訟代理人弁護士 家郷誠之

同 佐井利信

被告 株式会社 東京フレックス

右代表者代表取締役 前島崇志

右訴訟代理人弁護士 永石一郎

同 土肥將人

主文

一  被告は、「株式会社東京フレックス」の商号を使用してはならない。

二  被告は、接続金具がメタルタッチ式の一つ山タイプのフレキシブルチューブについて「TF一六〇〇M」又は「TF一六〇〇F」の型式番号を、ユニオン継手をルーズ取付けするフレキシブルチューブについて「TF一〇〇〇」の型式番号を、各種フランジ付フレキシブルチューブについて「TF三〇〇〇」の型式番号を各使用し、又は右各型式番号を使用した右各商品を販売拡布若しくは輸出してはならない。

三  被告は、千葉地方法務局船橋支局受付の被告の商業登記中、商号登記「株式会社東京フレックス」の抹消登記手続をせよ。

四  被告は、原告に対し、金九一〇万三九〇〇円及び内金九〇三万九九〇〇円に対する平成五年二月二三日から、内金七五〇〇円に対する同年六月八日から、内金二万四五〇〇円に対する同年七月三〇日から、内金三万二〇〇〇円に対する同年七月三一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

七  この判決の第四項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  主文第一項と同旨

二  被告は、一つ山タイプのフレキシブルチューブについて「オメガチューブ」の名称を、接続金具がメタルタッチ式のフレキシブルチューブについて「TF一六〇〇」の型式番号を、ユニオン継手をルーズ取付けするフレキシブルチューブについて「TF一〇〇〇」の型式番号を、JIS一〇Kフランジ付フレキシブルチューブについて「TF三〇〇〇」の型式番号を各使用し、又はこれを使用した商品を販売拡布若しくは輸出してはならない(なお、原告の平成六年一一月二四日付請求の趣旨変更申立書には、これに続けて「原告の商品と混同を生ぜしめる行為、又は原告の営業上の施設若しくは活動と混同を生ぜしめる行為をしてはならない。」との記載があるが、無用の余事記載と解される。)。

三  主文第三項と同旨

四  被告は、原告に対し、金一億一四〇〇万円及びこれに対する平成五年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  第四項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  当事者等(1、4及び6の事実は当事者間に争いがなく、その余の事実は《証拠省略》により認められる。)

1  原告は、三隅田悦朗(以下「三隅田」という。)が昭和三四年三月に個人事業として始めた「東京フレックス製作所」を前身として、昭和三七年一月一二日に「株式会社東京フレックス製作所」の商号で設立された株式会社であり(昭和四九年八月一日現商号に変更)、フレキシブルチューブ(螺旋管)、伸縮管継手、高圧用テフロンチューブ等の製造販売を業とするものである。

2  三隅田は、昭和四二年五月二〇日、東京都荒川区南千住に本店を置き、各種金属螺旋管及びベローズ管の製造販売を目的として、原告の設立当初の商号と同一の商号を有する「株式会社東京フレックス製作所」(以下「訴外会社」という。)を設立し、原告と訴外会社の代表取締役を兼務した。

原告と訴外会社は、原告を東京フレックス製作所大阪事業本部と称し、訴外会社を東京フレックス製作所東京事業部と称して、対外的には一体の会社として営業を行ってきた。

3  ところが、昭和四九年五月、訴外会社の取締役であった伊藤守雄らが三隅田に造反し、同人の代表取締役解任を決議したことなどから訴外会社の経営権を巡る紛争が発生したが、同年七月一二日、原告、三隅田及び株式会社ステンレスパイプ製作所(代表取締役・三隅田)と訴外会社及び伊藤守雄らとの間で略左記の内容の和解が成立した(以下「本件和解契約」という。)。以後、原告と訴外会社は、形式的にはもとより、実質的にも別々の会社として、それぞれ無関係に事業を行うこととなった。

「(1) 三隅田は、訴外会社の昭和四九年五月三一日開催の取締役会において代表取締役を解任されたことについて異議の申立てをせず、訴外会社は、三隅田が同年六月三日取締役を辞任したことを承認する。

(2) 訴外会社は、以後、自社製品についてAGA(アメリカンガスアソシエーション)認定製品と称したり、自社をAGA認定工場である旨表示しない。

原告、三隅田及び株式会社ステンレスパイプ製作所と訴外会社は、互に有する特許権、ノウハウ、実用新案権、商標、意匠権を不法に侵害しない。

(3) 訴外会社は、株式会社ステンレスパイプ製作所よりフレキシブルチューブ製品の供給を受けないことについて異議がなく、以後これに関して何らの請求もしない。

(4) 原告及び訴外会社は、本和解成立後速やかに、パンフレット、カタログ等の改訂をしなければならない。

このとき、訴外会社は商号を変更しなかったが、原告は、同年八月一日、商号を現商号「トーフレ株式会社」(以下「原告商号」という。)に変更した。その際の原告の挨拶文には、「又以上の様に会社が各々分離されましたが、同じ社名で存在される事になりますと、技術的信用及製造された製品の品質責任所在が判別し難く、将来お得意様の不信に連る要素が生れる事も明確でありますので、従来の株式会社東京フレックス大阪事業本部(創設会社)は来る八月一日より社名を“トーフレ株式会社”英文にて"TOFLE CO., INC."と社名変更し気分一新して真に皆様に貢献する技術のパイオニアとして愛される“トーフレ”を発足致し度いと存じます」との記載がある。

4  原告は、本件和解契約の直後、原告東京支店を開設し、前島崇志(以下「前島」という。)を同支店長に就任させた。

原告は、東京支店の努力によって関東地区においても得意先を開拓し、業績が向上した。

5  訴外会社は、昭和四九年五月頃までは順調に営業成績を上げてきたが、経営者内部の紛争、昭和五〇年の従業員のストライキ、主力銀行からの援助の打切り等によって極端な営業成績の低下を来し、昭和五二年五月二五日第一回の不渡りを、同年六月一〇日第二回の不渡りを出し、同月一三日取引停止処分を受け、同年一一月二一日午後四時、東京地方裁判所により破産宣告を受けた。

6  被告は、昭和五二年八月二五日、東京都港区《番地省略》に本店を置いて各種金属、螺旋管及びベローズ等の製造、販売を目的として設立された株式会社であり、設立当初は商号を「東京フレックス工業株式会社」としていたが、平成三年四月二日現商号の「株式会社東京フレックス」(以下「被告商号」という。)に変更した。設立当初の代表取締役は武村隆一であったが、その後原告の東京支店長であった前島が代表取締役に就任して現在に至っている。

二  原被告の商品の名称、型式番号(1後段の事実は争いがなく、その余の事実は《証拠省略》により認められる。)

1  原告は、その製造販売する商品のうち、ひだの形状がオメガ(Ω)形状(但し、被告はS字形状と主張)のフレキシブルチューブ、伸縮管継手(以下「原告製品」という。)について、昭和五〇年頃から「オメガ型」の名称を使用しており、右フレキシブルチューブのうち、クローズドピッチのチューブを「オメガベローズ」、スタンダードピッチのチューブを「オメガチューブ」と称している。

原告は、その製造販売するフレキシブルチューブに、形状、用途、接続金具等の別に応じて、「TF一〇〇〇」というように「TF」の下に四桁の任意に選択した数字を付したものを型式番号として使用し、カタログ等に登載している。このうち、接続金具がメタルタッチ式の一つ山タイプについて「TF一六〇〇」、ユニオン継手をルーズ取付けするフレキシブルチューブについて「TF一〇〇〇」、JIS一〇Kフランジ付フレキシブルチューブについて「TF三〇〇〇」、ニップルをチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて「TF五〇〇〇」、接続ねじにPTを使用し、袋ナット金具をチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて「TF七〇〇〇」という各型式番号を使用している(以下「原告型式番号」という。)。

2  被告は、その製造販売する商品のうち、一つ山タイプのフレキシブルチューブ(以下「被告製品」という。)について、昭和六〇年頃から「オメガチューブ」の名称を使用している。

被告は、その製造する商品に、「TF」の下に四桁の数字を付したものを型式番号として使用し、カタログ等に登載している。このうち、接続金具がメタルタッチ式の一つ山タイプのフレキシブルチューブについて「TF一六〇〇M」又は「TF一六〇〇F」、ユニオン継手をルーズ取付けするフレキシブルチューブについて「TF一〇〇〇」、各種フランジ(五種類以上)付フレキシブルチューブについて「TF三〇〇〇」、ニップルをチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて「TF五〇〇〇M」又は「TF五〇〇〇F」、接続ねじにPTを使用し、袋ナット金具をチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて「TF七〇〇〇M」又は「TF七〇〇〇F」という型式番号を使用している(以下「被告型式番号」という。)。

三  原告の請求

原告は、

①原告商号は原告の営業を表すものとして周知性を取得しているところ、被告商号は原告商号に類似し、その使用は原告の営業との混同を生じさせるとして、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、又は②被告は、登記された原告商号に類似する被告商号を「不正ノ競争ノ目的」で使用しているとして、商法二〇条一項に基づき、被告商号の使用の停止(請求の趣旨第一項)及び抹消登記手続(同第三項)を、

③「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号は原告の商品であることを示す表示として商品表示性、周知性を取得しているところ、被告の「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号はそれぞれ「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号に類似し、その使用は原告の商品との混同を生じさせ、これによって原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあるとして、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき被告の「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号の使用の停止(請求の趣旨第二項)を、

④右①、③の不正競争行為により原告の被った損害の賠償として、不正競争防止法四条に基づき、第一次的に一億一四〇〇万円(被告の年間売上高の一パーセントは右不正競争行為によって取得したものであるとして、その三年分)、第二次的に五八四一万〇五〇〇円(原告が具体的に指摘する事例における損害額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年二月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第四項)を

請求するものである。

四  争点

1(一)  原告商号は原告の営業を表すものとして周知性を取得しているか。

(二) 「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号は原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得しているか。

2(一)  被告商号は原告商号に類似し、その使用は原告の営業との混同を生じさせ、これによって原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか。

(二) 被告の「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号はそれぞれ「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号に類似し、その使用は原告の商品との混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか。

3  被告には被告商号の使用について商法二〇条一項にいう「不正ノ競争ノ目的」があるか。

4  「オメガチューブ」の表示は、不正競争防止法一一条一項一号にいう普通名称に該当するか。

5  被告は、被告型式番号についていわゆる先使用権(不正競争防止法一一条一項三号)を有するか。

6  原告の本件請求は、信義則に反し、権利濫用に当たるか。

7  被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1((一)原告商号は原告の営業を表すものとして周知性を取得しているか。(二)「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号は原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得しているか)について

【原告の主張】

以下のとおり、原告商号は遅くとも被告が設立された昭和五二年八月までには原告の営業を表すものとして周知性を取得しており、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示は昭和五四年初めには、原告型式番号は右昭和五二年八月にはそれぞれ原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得している。

1 原告の営業及び製品

(一) 原告の発展

(1) 原告は、昭和三七年三月、当時不可能とされていたステンレス鋼製フレキシブルチューブを開発した。従来のフレキシブルチューブは銅を主体としたものであったが、ステンレス鋼製フレキシブルチューブは、これに比して耐蝕性、耐熱性に優れ、かつ著しく耐久性に富んだものであったため、高圧熱処理屈伸部門及び配管部門において多大の支持を得るところとなって、原告はこれにより業界で著名な会社となった。

なお、原告は、昭和四一年八月、薄肉ステンレス鋼の焼鈍酸洗処理工程の際に生じる多くの品質劣化要因を根本的に取り除くためのステンレス鋼製フレキシブルチューブ専用光輝焼鈍炉設備を完成した。

(2) 被告は、原告においてフレキシブルチューブの製造が可能となったのは昭和四五年であるとか、右フレキシブルチューブが大手ユーザーに採用されたのは昭和四七年以後であり、原告の売上げも昭和四六年以前は業界ではまだ下位であったとか主張するが、事実に反する。原告は、既に昭和四二年当時において四八六〇本、一億四五八〇万円のステンレス鋼製フレキシブルチューブの製造実績があり、これは原告の総製造(販売)高の九〇パーセントであった。そして、原告は、当時既に業界五位の地位にあり、昭和四八年にはステンレス鋼製フレキシブルチューブのトップメーカーとして売上高は三六億円に達していた(昭和四九年四月一五日付日経産業新聞)。

(3) 原告は、設立当初東大阪市稲田に工場を設置し、昭和三九年九月同市徳庵に素管工場を新設し、昭和四一年に福井市に工場を移転した後は、造管は福井工場(但し、事業主体は三隅田の個人企業の「日本ステンレスパイプ製作所」)で行い、波付と焼鈍は金沢市内の下請業者に担当させ、徳庵工場では組立を行ってきた。

また、原告は、昭和四四年一月門真市に工場を新設し、昭和四六年頃守山工場を新設した。

なお、三隅田は、昭和三七年四月、需要家に対するアフターサービスの充実と製品販路の拡充を目的に原告専属の販売部門として三光商事株式会社を設立したが、原告の知名度が浸透したので、昭和四四年一二月一日、原告が右会社を吸収合併した。

(二) AGA認定の取得

(1) 昭和四七年当時、日本国内においてはフレキシブルチューブについてまだJISがなく、品質もメーカーによってまちまちで、ひび割れが生じるなど安全性に問題があった。原告は、その開発にかかるステンレス鋼製フレキシブルチューブを米国に輸出するに当たってはAGA(アメリカン・ガス・アソシエーション)の認定を受けなければならないため、昭和四六年中に米国において苛酷な使用テストを受け、米国の有力ガス器具メーカーであるドーモント・マニュファクチュアリング社(以下「ドーモント社」という。)を通じて昭和四六年末に我が国メーカーとして初のAGAの規格合格の認定を受けた。

原告は、これに伴い、昭和四七年一月、ドーモント社との間で、米国・カナダ市場を対象に五年間の長期輸出契約を締結した。当時は、先進国の米国においても、ステンレス管がガスに使用されることはまれであり、その使用に当たってはAGA認定の原告のステンレス鋼製フレキシブルチューブが唯一の規格品であったため、右ドーモント社がこれを毎月二万メートル程度輸入し、米国及びカナダで販売することになったものである。右事実は昭和四七年三月一五日付空調タイムス、同月一七日付日本工業新聞、同年八月一四日付日経産業新聞に取り上げられ、原告商号の周知性は不動のものとなった。

(2) 原告は、右の実績を評価されて、昭和四七年五月、東京瓦斯株式会社及び大阪瓦斯株式会社から指定メーカーの認定を受けた。

また、原告は、昭和四八年、米国のパックレス・メタルホース社にステンレス鋼螺旋管製造プラント一式とその製造技術を輸出することになったが、これが昭和四八年四月六日付日刊工業新聞、同年五月一日付日経産業新聞に取り上げられ、例えば右日刊工業新聞では、「同社のステンレス鋼製ら旋管は昨年二月、アメリカ・ガス協会(AGA)の規格認定を受けていることから、東京瓦斯、大阪瓦斯が相次いで採用したほか、最近では米国へのら旋管製品の輸出量も急増の一途をたどっている」と報道されている。

(3) 原告は、昭和五〇年、工場内・製品などの厳しいチェックの末、AGAから直接認定を受けた。同年八月二六日付日刊工業新聞では、右の事実が報道されるとともに、我が国でAGAから直接認定を受けているのは松下電器、パロマ、豊和産業、リンナイの四社のみであったところ、原告は五番目に認定されたものであり、右認定を受けたことにより、技術的にも製品としても優れているという「折紙」がつけられることになる、と紹介されている。

(4) 被告は、原告がAGA認定を受けたことの価値を故意に矮小化するような主張をするが、右のような権威ある各新聞の報道に照らし、被告の主張が理由のないものであることは明らかである。

(三) 原告製品の開発と「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の使用

(1) 原告は、昭和五〇年一〇月、米国のユニバーサル社との技術提携によって、エラストマー成形法による独自の高速成形機(成形に要する分だけ母材を自動的に送り込み、これに圧力をかけてオメガ形のひだを作る高速成形機で、右自動化に加え従来のU字形成形法にみられる加工硬化がほとんどなくなり、成形スピードが従来よりも七倍以上高速化されるという特徴を有するもの)の開発に成功した。

原告は、右高速成形機によって、ひだの形状がU字形ではなくオメガ形の独自のステンレス鋼製フレキシブルチューブを生み出した。

原告は、この頃から、右のようにひだの形状がオメガ形のフレキシブルチューブ、伸縮管継手(すなわち原告製品)について、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示を使用している。

(2) 原告製品は、ひだの形状がU字形のものと異なり、均一のオメガ形状(均一な円弧の連続)であるところに最大の形態上の特徴があり、U字形のフレキシブルチューブに比して、柔軟性、振動吸収性が格段に優れているという性能上の特徴を有し、また、肉厚が薄くてすむため、小型化できること、長尺チューブにできること等の特質を有する。

従来のフレキシブルチューブは、ひだ形状(U字形)を液圧、水圧方式やローラーでU字形の山と谷を絞り込んで成形するため偏肉現象が避けられず、チューブの肉厚を薄くすることも困難であり、そのため柔軟性、振動吸収性が不十分であった。原告は、右(1)のとおり従来の成形法と全く異なるエラストマー成形法による高速成形機の開発に成功したことにより、従来の成形法では避けられなかった偏肉現象を克服し、肉厚の薄い(〇・三mmから一mm)チューブの製造を可能としたものである。

被告は、フレキシブルチューブの成形法は圧倒的に液圧及びロール成形法が主流であり、これらの成形法では偏肉現象が避けられないとする原告の主張は主観的なものにすぎない旨主張するが、これらの成形法で偏肉現象が生じることは、専門誌である雑誌「発明」昭和五一年五月号に解説されており、客観的な事実である。

原告製品は、右のように高速成形機により加工製造されたひだの形状がオメガ形のチューブにブレードを巻き接続金具をつけて完成品となるが、チューブの内圧による推力を受け止めてチューブの伸びを防ぎ、外傷からチューブを保護する役割を果たすブレードについても、ワイヤーブレードを格子状に機械でからみ編みした柔軟性を損なわない特質を有するブレデッドブレードを使用し、接続金具についてもいち早くフランジを溶接なしで取り付ける種々の考案を実施している等の特徴を有するものである。

(3) 右新製品たる原告製品の開発は大きな反響を呼び、昭和五一年一月一三日付日刊工業新聞により「柔軟性に富み安価なフレキシブルチューブ」、「独自の高速成形機でひだ形状をオメガ形に改良、トーフレが開発」との見出しのもとに、同月三〇日付日刊建設工業新聞により「建築、空調進出めざすトーフレ・オメガ型・フレキシブルチューブ」、「耐圧性、柔軟性を両立」との見出しのもとに大々的に報道された。

また、前記雑誌「発明」昭和五一年五月号は、先端技術シリーズとして、原告製品を「理想的なフレキシブルチューブ」の見出しで詳細に紹介している。

(4) 原告は、従来は鉄鋼・化学プラントの分野に大きなマーケットを有していたが、オメガ型フレキシブルチューブの製品化によって建築・空調・船舶・油送分野での需要の開拓に努めることとなった。

原告は、昭和五一年、金型を合成樹脂製に代えて更に高精度で連続成形できる改良技術を開発し、またフランジを溶接なしで取り付けるNW式を考案した。右考案、技術改良も、昭和五一年八月二三日付日刊工業新聞で「チューブのオメガ状山形、高精度(〇・〇一ミリ)で連続成形」、「金型を合成樹脂製に、トーフレが新技術、振動吸収さらに向上」、「船舶の曲がり管や工業用ベローに使用も」との見出しのもとに、同年九月八日付日刊建設工業新聞で「オメガタイプフレキシブルチューブ、トーフレが改良型開発」、「ビル空調に最適、耐震、消音性能を生かす」、「溶接部なくし性能向上」の見出しのもとに取り上げられた。

右日刊建設工業新聞に報道されたとおり、原告には右新製品の開発によって、鉄鋼・化学プラントメーカー等からの需要に加え、ビル空調用の注文が相次いだ。

また、油を積んでいるタンカーの場合、火を使うことは危険であるため、右新製品の溶接部なしのメリットは特に大きく、原告は大阪商船三井船舶にこれを試験的に納入し、一年半にわたるテストの結果、昭和五二年二月、同社所属の三三隻に海水の曲がり管として採用されるに至った(昭和五二年二月二三日付日刊工業新聞)。

昭和五三年三月一一日付日刊工業新聞は、急成長する原告を次のとおり報道している。

銅合金製フレキシブルチューブよりも耐食、耐久性に富んだステンレス鋼製を開発して以来、しだいに市場に食い込んでいった。飛躍を迎えたのは、米国の技術を導入してからだ。ただ、導入とはいえ、それまでに培ってきた技術をバーターする形で進め、一方で国産化を図り、力をつけたことが大きな要素となった。」、「同社のヒット商品は、オメガ形フレキシブルチューブがあげられよう。従来、チューブの柔らかさや耐圧性、振動吸収性を出すためにU字形のひだをつけていた。これをオメガ型に代え、ワイヤをテープ状に編んだブレードなどで巻いた独創的なもの。これにより、大口径チューブを加工硬化なく絞れる利点と相まって、均一な柔軟性、振動吸収性などを出せるうえ価格を三〇%引き下げることに成功、チューブの理想的な姿とさえいわれた。オメガチューブは昨年、発明功労賞(日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催)を受けたほか、米国でも高い評価を受け、さらに船の曲がり管、エンジンまわりの排気管として新分野を切り開いた。これらは従来、ともに溶接によってつくられていた。ステンレス鋼を溶接するとクラックやさびの要因となり、しかも溶接費が高い。溶接技術を使わなければ品質が向上するし、コストダウンも可能になるはず―この考え方をベースにノー溶接技術を確立、新分野に切り込んでいった。」

(5) 被告は、オメガ型フレキシブルチューブは、原告が開発したと主張する昭和五〇年より一〇数年前から欧米において開発されていたものであると主張するが、全く根拠がない。原告のオメガ型フレキシブルチューブは、前記のとおり、工業新聞で最も権威のある日刊工業新聞をはじめとして、日刊建設工業新聞、雑誌「発明」等で取り上げられたものであって、特許を得るに必要な高度性を有するものであるが、螺旋業界の大半が小規模の企業であり、技術を公開すれば直ちに模倣されるおそれがあるので、原告は特許出願をせずに技術的秘訣として留めているものである。ちなみに、原告のオメガ型フレキシブルチューブは、昭和五二年二月一四日、前記(4)の昭和五三年三月一一日付日刊工業新聞によって報道されたとおり第二回発明功労賞を受賞している。

また、被告は、オメガ型フレキシブルチューブは株式会社東京螺旋管製作所の片山が考案したもので、被告代表者は昭和三九年当時東螺工業の営業部員としてこれを販売していたものであり、原告が発明開発したものではない旨主張するが、原告の開発したオメガ型フレキシブルチューブはひだの形状が均一の円弧の連続であるのに対し、片山式は、山の部分は球状であるが、谷の部分は平面というものであって、形状はもちろん、柔軟性、振動吸収性が全く異なるものである。

(四) 原告のその他の技術開発

(1) 原告は、右の他にも、次のような技術開発を行っている。

(イ) 昭和四八年七月、メタルタッチ式フレキシブルチューブを開発(昭和四八年七月七日実用新案登録出願、実用新案登録第一三〇一〇二号)。

(ロ) 昭和五一年一月、前記(三)(4)記載のとおりフランジを溶接なしで取り付けるNW式を開発(昭和五一年九月八日付日刊建設工業新聞)。

(ハ) 昭和五六年二月、スイスのボア社から導入した技術により、薄板二枚重ねの構造で使用圧力が二倍以上高い苛酷な使用に耐える超高圧金属フレキシブルチューブを開発(昭和五六年二月一八日付日刊工業新聞)。本製品は未だ他の業者には製造不可能である。

(ニ) 昭和五八年八月、高圧用二層ベローズ及びチューブ保護材として柔軟性と耐久性に優れた独特のブレデッド・ブレード(編み組みされたブレード)を開発(昭和五八年八月四日付日刊工業新聞)。

(ホ) 昭和六〇年七月、柔軟性を二倍に、繰返し寿命を五ないし一七倍と大幅に高めた新タイプのスパイラルチューブ(エクセレントチューブ)を開発(昭和六〇年七月二五日付日刊工業新聞)。

(ヘ) 平成元年九月、理想的なエクセレント形状に成形した口径二五mm以下の細物フレキシブルチューブ(ベローフレキ)の実用化に成功(平成元年九月一二日付日刊工業新聞)。

(2) 被告は、右(1)の各種技術開発について、いずれも欧米で既に考案、開発されたものである旨主張するが、(イ)は原告において実用新案権を取得した考案であり、(ロ)ないし(ヘ)も、原告の単なる宣伝ではなく、日刊工業新聞等に新技術・新開発として詳細に報道されたものである。なお、原告の開発した技術は他にも多数あり、その都度日刊工業新聞等に取り上げられているのであって、右(1)の(イ)ないし(ヘ)はその一例にすぎない。

(3) 原告は、これらの技術を用いて次のような製品を製造販売している。

エクセレントチューブ(国際水準品)、オメガ型ステンレス鋼製フレキシブルチューブ、オメガ型伸縮管継手、オメガ型建築用溶接なし伸縮管継手、オメガ型多層ベローズ、オメガ型消防法認定二層管フレキシブルチューブ、ガス配管内フレキシブルチューブ、超高圧テフロン製フレキシブルチューブ、地下埋設用フレキシブルホース、ステンレス製継手、大口径ベローズエキスパンション、スプリンクラー用フレキシブルチューブ

(五) 原告の売上高等

原告は、現在年間売上高が約六五億円であって、国内シェアは二〇パーセントを超え、従業員一二〇名、九支店一営業所を有し、子会社を国内三社、海外二社有していて、業界の第一人者の地位を長年に亘って保持している。なお、原告製品の売上高は全売上高の六〇パーセント以上を占めている。

2 原告商号の周知性

(一) 原告は、前記のとおり、昭和三七年三月、当時不可能とされていたステンレス鋼製フレキシブルチューブを開発し、昭和四六年末にステンレス鋼製フレキシブルチューブの我が国メーカーとして初のAGAの規格合格の認定を受け、昭和四八年にはステンレス鋼製フレキシブルチューブのトップメーカーとして売上高は三六億円に達していたことから、旧商号の「株式会社東京フレックス製作所」の時代からつとに著名であり、特に、昭和五〇年一〇月、高速成形機の開発に成功し、これによりひだの形状がオメガ形のフレキシブルチューブの製造を開始した後は、従来の鉄鋼・化学プラント分野の他、建築・空調・船舶・油送分野等広範な分野に進出し、業界第一人者の地位を保持していること、昭和五二年二月、原告製品(オメガチューブ)が日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催による第二回発明功労賞を受賞したこと等から、原告商号は、遅くとも被告が設立された昭和五二年八月当時には、全国にわたって取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っている。

(二) なお、原告は、本件和解契約の後、訴外会社との誤認混同を避け、別会社であることを対外的に明らかにするため、昭和四九年八月一日、商号を旧商号の「株式会社東京フレックス製作所」から原告商号「トーフレ株式会社」に変更したが、原告の旧商号と同一の「株式会社東京フレックス製作所」を名乗った訴外会社は、原告に比してもともと規模が格段に小さく、かつ、原告が商号を変更してからわずか三年以内に倒産・消滅したため、右商号変更後も、原告商号の「トーフレ」は旧「東京フレックス」であるとして需要者の間に認識されている。

3 「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の周知性

原告が「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示を使用している原告製品のひだのオメガ形の形状は、他社のフレキシブルチューブ、伸縮管継手には全くない形状であって、昭和五一年から、日刊工業新聞等において「理想の」又は「究極の」形状と称賛されて大きく取り上げられたこと、昭和五二年二月、日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催による第二回発明功労賞を受賞したこと、原告が多大の費用を投じて宣伝に努めたこと等により昭和五四年頃から原告製品のみで月商約一億五〇〇〇万円の売上げがあること、これと原告の著名性とが相俟って、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示は、原告の商品であることを示す表示として、遅くとも売上げが月商一億五〇〇〇万円に達した昭和五四年当初には全国にわたって取引者及び需要者の間に広く認識されるに至っている。

4 原告型式番号の商品表示性、周知性

原告は、古くから、その製造するフレキシブルチューブに原告型式番号を使用している。

原告型式番号のうち、「TF」は「トーフレ」の略であり、数字は任意に決めたもので特別の意味はない。需要者が原告の製品を注文する際には、原告型式番号によりこれを特定している。

本件和解契約の後、訴外会社はTFの型式番号を使用しなくなったことから、原告型式番号は、原告独自のフレキシブルチューブの形状、用途、接続金具、口径の別に応じた原告の商品であることを示す商品表示として、遅くとも原告商号が周知性を取得した昭和五二年八月には周知性を取得している。

【被告の主張】

1 【原告の主張】1原告の営業及び製品について

(一) 原告の発展

(1) 原告は、昭和三七年三月、当時不可能とされていたステンレス鋼製フレキシブルチューブを開発したと主張するが、当時原告は東大阪市徳庵に本店を置いており、それはわずか三〇〇平方メートルほどの広さであったのであり、フレキシブルチューブの開発、製造には一定の広さの工場が必要であるから、右本店内にそのための機械設備を設置するのは不可能であり、事実フレキシブルチューブを製造する場所も機械も存在していなかった。

原告においてフレキシブルチューブの製造が可能となったのは昭和四五年であり、しかも、実際にその製造を行ったのは、三隅田が当時個人経営していた滋賀県守山市のステンレスパイプ社であった。

また、原告は、右ステンレス鋼製フレキシブルチューブが高圧熱処理屈伸部門及び配管部門において多大の支持を得るところとなって、原告はこれにより業界で著名な会社となった旨主張するが、原告の製品は昭和四一年頃に製紙会社にわずかに使用され、昭和四三年頃から徐々に需要が広まり、大手ユーザーに採用されたのは昭和四七年以後である。原告の売上げも、昭和四六年以前は業界ではまだ下位であり、上位の同業者が一〇数社あった。

(2) 原告が既に昭和四二年当時において年間四八六〇本、一億四五八〇万円のステンレス鋼製フレキシブルチューブの製造実績があり、業界五位の地位にあったとの事実は否認する。原告においては、昭和四二年当時、口径六五A以上のものは製品化されていなかったから、仮に原告が口径六五A以上のものを販売していたとしても、他の同業者からの購入分である。また、小口径のフレキシブルチューブを製造していたとしても、その平均単価は一本二〇〇〇円ないし三〇〇〇円であるから、右主張の製造本数が正しいとしても、価格は一〇〇〇万円ないし一五〇〇万円であり、売上高、生産数量からして、業界五位ということはありえない。原告の昭和四二年当時の貸借対照表、損益計算書には原告主張のような製造実績は記載されていないはずである。

(二) AGA認定の取得

(1) 原告が昭和四六年にAGA認定を取得したことは認めるが、原告主張のドーモント社との契約はOEM供給(原告が製造し、ドーモント社が自社のブランドで販売する。)である。

ちなみに、AGA認定は、国内の大手フレキシブルチューブメーカーにとっては比較的容易に取得することができる認定であるが、米国内での独自の販売は困難であり、原告のようなOEM供給の販売形態では魅力がないうえ、日米の貿易摩擦の問題、国内需要の拡大基調により、被告をはじめ国内のフレキシブルチューブのメーカーは、敢えて輸出をしていない現状にある。

(2) 昭和四七年五月当時、東京瓦斯株式会社はガス配管にフレキシブルチューブ(ドーモント社の実績と同等の製品)を使用しておらず、右フレキシブルチューブの使用を開始したのはその一〇数年後のことである。また、原告のフレキシブルチューブは、大阪瓦斯株式会社においては、その子会社で実験的に一部採用された程度であり、その販売高及び内容は微々たるものである。

なお、現在は、東京瓦斯株式会社及び大阪瓦斯株式会社に対して原告からの納入はなく、他のメーカーが納入しているのであり、この分野でも原告は遅れをとっている。

(三) 原告製品の開発と「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の使用

(1) エラストマー成形法で成形されるフレキシブルチューブのひだの形状はS字形状であり、技術書籍にもそのように記載されており、オメガ形状ではない。また、オメガ型すなわちオメガ形状のフレキシブルチューブは、S字形状のフレキシブルチューブと同様に、原告が開発したと主張する昭和五〇年より一〇数年前から欧米において開発されていたものである。

オメガ型フレキシブルチューブは、株式会社東京螺旋管製作所の片山が考案したもので、実用新案出願公告がなされたが、全国ラセン管工業協会から異議の申立てがあり、昭和三五年頃には誰でも自由に使用することが可能になっていた。被告代表者は、昭和三九年当時、東螺工業の営業部員として、千代田化工建設、日本揮発油等にオメガ型フレキシブルチューブを販売していた。右東螺工業は、昭和四〇年に倒産し、設立前の訴外会社が、オメガ型フレキシブルチューブを東螺工業従業員組合から購入した。その後、訴外会社の営業部員が、同様に右製品をオメガ型可撓管又はオメガ型フレキシブルチューブの名称で販売していた。

オメガ型フレキシブルチューブは原告が発明、開発したものではなく、第二回発明功労賞は原告が虚偽の申請により受賞したものである。

(2) 原告は、原告製品は、ひだの形状がU字形のものと異なり、均一のオメガ形状(均一な円弧の連続。検甲第一号証)であるところに最大の形態上の特徴があり、U字形のフレキシブルチューブに比して、柔軟性、振動吸収性が格段に優れているという性能上の特徴を有し、また、肉厚が薄くてすむため、小型化できること、長尺チューブにできること等の特質を有すると主張するが、原告がオメガ型フレキシブルチューブと称するS字形状のフレキシブルチューブは、柔軟性、振動吸収性には優れるが、伸縮の吸収についてはU字形のフレキシブルチューブに比べて形態上からも不利であり、小型化できるという点ではエラストマー成形法も液圧成形法も同じであり、薄板という点ではロール成形法が最も薄く絞ることができるのである。

原告は、従来のフレキシブルチューブは、ひだ形状(U字形)を液圧、水圧方式やローラーでU字形の山と谷を絞り込んで成形するため偏肉現象が避けられない旨主張するが、欧米及び国内の業界においてこのような主張をする企業はなく、圧倒的に液圧及びロール成形法が主流である。各成形法にはそれぞれ特徴があるのであって、原告の主張は主観的なものにすぎない。

(3) また、原告は、原告のオメガ型フレキシブルチューブは特許を得るに必要な高度性を有するものであるが、螺旋業界の大半が小規模の企業であり、技術を公開すれば直ちに模倣されるおそれがあるので、原告は特許出願をせずに技術的秘訣として留めているものである旨主張するが、原告の製造している製品のほとんども国内及び欧米の同業界の製品の模倣であることは後記(四)記載のとおりである。

(4) 全国ラセン管工業協会では、自治省等からの依頼により、安全基準に基づく品質規格、使用基準の作成を無料で行っている。原告は、右協会に属さないにもかかわらず、勝手に同規格、同基準に基づいて製品を製造販売しているが、これは業界の第一人者であるという原告の主張と矛盾するものである。

(四) 原告のその他の技術開発

(1) 日本のフレキシブルチューブ製造業の歴史はおよそ五〇年と浅く、米国はおよそ九〇年、ドイツは一〇五年から一一〇年の歴史を有し、この業界の先進国は欧米である。したがって、現在の日本のフレキシブルチューブの製造は、ほとんど欧米の技術の模倣から始まっていると言っても過言ではない。これは業界周知の事実であり、原告が開発した旨主張する技術も、後記(2)のとおりいずれも欧米で既に考案、開発されたものである。

(2)(イ) メタルタッチ式フレキシブルチューブ(継手)の開発については、昭和三六年東洋螺旋管工業株式会社の宇久によってブレード止めが考案され、フレアー部分は米国においてANSI規格の改訂版(一九七三年度版)にも記載されている(考案はそれ以前AGAでも認可されている。)。

(ロ) フランジを溶接なしで取り付けるNW式は、昭和四五年以前から西ドイツ(当時)のヴィッツマン社(設立一八八九年、年商七億ドル。売上高、技術力において世界一のフレキシブルチューブメーカー)により製造販売されている。

昭和四八年当時、訴外会社の営業部員が永大産業(相馬)の機械に取り付けられていた交換品(ヴィッツマン社の商標「HYDRA」のラベル表示があるもの)を原告の製造部に渡したという事実がある。

(ハ) 原告主張の薄板二枚重ねのフレキシブルチューブなるものがどのようなものであるか不明であるが、薄板二枚重ねの構造という点だけについていえば、国内の数社が既に昭和三〇年代に五ないし六枚重ねの製品を製造販売している。シーム溶接式のフレキシブルチューブを指すのであれば、以前は欧米のフレキシブルチューブメーカーによって数多く製造されており、現在は特殊な用途にだけ使用されているので製造数は極端に減ってきているものの、被告も外国から購入している。

(ニ) ブレデッドブレードは、昭和四五年以前から欧米のフレキシブルチューブメーカー数社により製造販売されている。

(ホ) 原告主張の新タイプのスパイラルチューブ(エクセレントチューブ)は、従来の形状に比べ波付け(コルゲーション)部分を低くしている。これでは製品が硬くなるので、波付け部分の間隔を小さくして補っているのであるが、このように波付けの形状を変更することは昔からすべてのメーカーが行っていることである。したがって、原告が波付けの形状を変更しただけで新タイプのスパイラルチューブを開発したと主張するのは虚偽である。性能については、被告が昭和六〇年以前から製造しているスパイラルチューブと何ら変わりのないものである。

(ヘ) 原告主張の細物フレキシブルチューブなるものがどのようなものであるか不明であるが、被告において「単山(同心円)フレキシブルチューブ」と称している製品を指すのであれば、被告は既に昭和五八年からこれを製造販売している。

(五) 原告の売上高等

原告の売上高は、平成二年一一月の帝国データバンクの調査によれば五四億一六〇〇万円である。これにはラセン管業界に属しない商品(フレキシブルチューブ、伸縮管継手以外の商品)や輸出商品の売上げも含まれており、国内の同業界での実質売上高は四〇億円以内ではないかと思われる。また、被告の調査によれば、原告の国内シェアは一〇ないし一五パーセントである。

2 原告商号の周知性について

(一) 原告が原告商号の周知性を基礎付けるものとして主張する事実(【原告の主張】1の(一)ないし(四))は、いわゆる業界新聞の記事を根拠とするものであるが、業界新聞が必ずしも事実を報道するものでないことは、被告より長くこの業界にいる原告は当然に了解しているはずである。業界新聞がある会社の発表について何ら裏付けをとらずにそのまま記事にすることはままあることであり、会社の側で営業戦略として業界新聞を利用することも稀ではない。

新聞等の刊行物によって営業表示が周知となりうることはいうまでもないが、たとえ記事を掲載した新聞の数が膨大な量に上ったとしても、それを通じて具体的に「トーフレ」という原告商号が原告という営業主体を示すものとして取引者、需要者の間にどの程度知られるに至っているかが問題である。原告や被告の主な取引者、需要者は官公庁、大手企業であり、これらの取引者、需要者は、新聞報道を安易に信じやすい一般消費者と異なり、螺旋管業界の実情、業界各社の技術力等の能力、商品の品質その他についてかなりの情報収集能力と厳しい判断能力を備えており、新聞報道、特に業界新聞の報道が真実だけを伝えるものでないことはその常識になっている。つまり、取引者、需要者の間では、原告商号は、昭和五二年八月当時から現在に至るまで、特に現在においては、原告の主張するような、技術力の優れた業界第一人者である原告という営業主体を表示するものとして認識されてはいない。

(二) なお、原告商号の「トーフレ」が「東京フレックス」を縮めたものであることは、たとえ真実を知らない第三者でも説明を受ければその語感から容易に推測できるものである。しかし、これが「トーフレ」イコール「東京フレックス」として全国的に認識されてきたということはない。原告の商号変更以前において、原告と訴外会社の分裂までの間「東京フレックス」は関東地区以東に存在し続けたわけであり、原告が商号変更をして二〇年以上を経た現在、「トーフレ」イコール「東京フレックス」と認識する需要者はいない。

3 「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の周知性及び原告型式番号の周知性について

(一) 本来、一つ山タイプのフレキシブルチューブは「アニュラー」又は「ベローズ」というのであるが、被告は、以下の事情により「アニュラー」から「オメガチューブ」に名称を変更したものである。

すなわち、原告は、昭和六〇年、官公庁のフレキシブルチューブ新規登録の際、「『オメガ形状』はフレキシブルチューブの形状(S字形状)をいう」と申し立て、いくつかの官公庁がこれを工事仕様書に掲載した。官公庁が特定業者の商品の呼称を仕様書に掲載するはずがないので、被告がある官公庁に問い合せたところ、原告から「フレキシブルチューブの形状がS字形状の製品をオメガ型フレキシブルチューブと称する」との申立てがあった、との説明を受けたものである。これに対し被告は、この種の製品の呼称は「アニュラー」が正しいと異議を申し立てたものの、既に仕様書に掲載されてしまったので、やむなく異議を取り下げ、以後被告においても「オメガチューブ」と称するようになった。

原告は、「オメガ型」等の表示が原告の商品であることを示す表示である旨主張するが、そうであればなぜ原告が官公庁の仕様書に関して右のような申立てをし、「オメガ型」の表示を一般化するようなことをしたのか、理解できない。

(二) 原告は、原告型式番号のうち「TF」は「トーフレ」の略である旨主張するが、「TF」は、原告及び訴外会社の商号であった「株式会社東京フレックス製作所」の「東京フレックス」の部分の略である。

被告は、訴外会社が使用していた型式番号をそのまま設立当初から使用しているものである。つまり、原告及び被告が使用する型式番号のうち同一のものは、まず原告と訴外会社が使用し、更に原告と被告が並行的に使用しているのであるが、需要者は混同することなく取引を継続している。これは、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示と型式番号だけでは混同・誤解のおそれがないとはいえないことから、略号をも併用しているためである。

原告は、需要者が原告の製品を注文する際には原告型式番号によりこれを特定していると主張するが、原告のカタログに原告型式番号と同列に複数の略号も記載されているように、需要者は、通常、原告型式番号と略号の一部によって商品を特定するものである。すなわち、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示と型式番号だけでは原告の特定の商品を示すことはできない。原告の主張によれば、同一の「オメガチューブ」の表示と型式番号だけで、原告と訴外会社、原告と被告を混同することなく、各々に対し注文が行われ、各々との間で取引が継続されてきたにもかかわらず、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示と型式番号だけで原告の特定の商品を示すことになり、不合理である。

前記のとおり原告や被告の製品の主な取引者、需要者である官公庁、大手企業は、一般消費者と異なり、螺旋管業界の実情、業界各社の技術力等の能力、商品の品質その他についてかなりの情報収集能力と厳しい判断能力を備えており、「オメガ型」又は「オメガチューブ」の表示が官公庁の仕様書にも掲載されている商品の普通名称であることは周知のことである。しかも、前記のとおり型式番号だけでなく略号をも併用して商品を特定し注文している状況からすれば、その使用当初から現在まで、原告における「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示と型式番号だけで、原告の一つ山タイプのフレキシブルチューブという特定人の商品であることを示すものであることが広く認識される客観的状況にあったということはない。

二  争点2((一)被告商号は原告商号に類似し、その使用は原告の営業との混同を生じさせ、これによって原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか。(二)被告の「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号は、それぞれ「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号に類似し、その使用は原告の商品との混同を生じさせ、これによって原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか)について

【原告の主張】

1 被告商号について

(一) 被告の設立当初の商号「東京フレックス工業株式会社」は原告の旧商号「株式会社東京フレックス製作所」及び原告商号(トーフレ株式会社)と類似しており、被告商号(株式会社東京フレックス)は、原告商号と類似していて紛らわしいものであり、被告と原告との間に営業上何らかの密接な関係(兄弟会社、特別な代理店等)があるのではないかと誤信させるものである。

(二) 被告は、訴外会社の倒産の過程で設立されたものであるが、その際、訴外会社の破産管財人から「東京フレックス工業株式会社」の商号を使用することの承諾を得たわけではないし、訴外会社の債権債務を引き継いだわけでもない。そうであるのに、倒産会社である訴外会社と類似の商号を使用することは、訴外会社の債権者から訴外会社の債務を承継した者であると誤解されて履行の請求を受ける等の不利益こそあれ、何らの利益もない。

被告の現代表取締役である前島は、後記三【原告の主張】のとおり、当初から原告に対する不正競争目的を有している者であること、及び被告が設立された昭和五二年八月当時は、原告が昭和四九年八月一日に商号を現在の原告商号に変更してからわずか三年を経過したのみで原告商号が十分浸透していたとはいい難く、特に原告の旧商号と同一商号であった訴外会社が倒産したという事情も重なって、「トーフレ」イコール「東京フレックス製作所」と受け止められていたことを総合すれば、被告が原告の旧商号である「東京フレックス製作所」と極めて紛らわしい「東京フレックス工業」の商号を使用した真の目的は、オメガ型ステンレス鋼製フレキシブルチューブの開発成功により著名会社として当時広く需要者に認識されていた原告との間に何らかの密接な関係があるのではないかと誤信させるため以外の何物でもない。

そして、被告は、原告商号が需要者の間に浸透するのに伴い、原告商号と誤認混同させ、ないしは原告との間に営業上何らかの密接な関係があるのではないかと誤信させるため、被告商号への商号変更を敢行したものである。

(三) 被告は、設立当初の会社案内書において、設立年月日「昭和五二年八月二五日(創業昭和三九年三月一二日)」というように創業の年月日につき虚偽の記載をしている。被告代表者の前島は、その尋問において、右記載が事実に反することは認めながら、訴外会社の創業に合わせたものである旨供述するが、訴外会社の設立は昭和四二年五月であって、昭和三九年三月ではない。このことも、設立時期が古い(昭和三七年一月一二日)原告との関連をにおわせる作為と考えられる。

2 「オメガチューブ」の表示について

(一) 被告の「オメガチューブ」の表示は、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示と同一又は類似のものである。

「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示は、前記のとおり原告の業界での著名性、原告製品の形態の著名性と相俟って、原告の商品であることを示す表示として周知性を取得しているものであるから、被告が「オメガチューブ」の表示を使用することは、原告の商品との混同を生じさせるものである。

(二) 原告製品は、前記一【原告の主張】1(三)記載の独自の高速成形機によって製造されるものであり、右技術を有しない被告は、同一程度の品質・性能を有するオメガ型のフレキシブルチューブを製造する能力がないのに、単にカタログにおいてオメガ型を呼称するにとどまらず、需要者に対して、「当社のオメガ形式チューブとトーフレのオメガ形式チューブの製法は同じです。」と虚偽の事実を述べ、かつ、原告の製品ではないものを原告の製品であると偽り、これと被告製品とを比較すると被告製品は耐蝕性などが優れているという検査結果を提出して取引を勧誘するという極めて悪質な不正競争行為をも行っている。

被告は、原告が官公庁のフレキシブルチューブ新規登録の際、「『オメガ形状』はフレキシブルチューブの形状(S字形状)という」と申し立てたので、官公庁から受注するためにやむなく「オメガチューブ」の表示を使用した旨弁解するが、オメガチューブの呼称が官公庁に登録されたことの意味は、原告が官公庁からの受注を独占できるということではなく、当該官公庁がフレキシブルチューブを発注するに当たっては、原告のオメガチューブと同一程度の品質のものに限るということであるから、被告としては独自の商品表示をしたうえ、正当な自由競争によって受注することは当然可能である。そもそも、原告が右登録の届出をしたのが昭和六二年四月であるところ、被告は既に昭和五七年から柔軟性のあるチューブについて原告に無断でオメガの呼称を使用しているのであるから、この点からも被告の主張は失当である。

(三) 被告が原告製品の類似品である被告製品を製造するに至った経緯は、以下のとおりであり、極めて不明朗なものである。

原告の出入業者であった三幸紙業株式会社は、原告が高速成形機の開発に成功し、これにより製造されるフレキシブルチューブがその優秀性から需要者の好評を得て好調な売上実績を上げていることに着目し、昭和五六年六月、社名をサンコー株式会社と変更し、定款の目的に原告と同一事業である「伸縮管継手用鋼管及び樹脂パイプの製造販売」を追加して螺旋管事業への進出を企てた。そして、サンコー株式会社は、当時原告の技術担当専務取締役であった小梶孝一、技術部次長であって原告の独占商品であるオメガ型フレキシブルチューブを製造する高速成形機の開発・改良を担当していた加藤伸哉、原告の関連会社トーフレオメガフレックス株式会社の係長であった佐々木生男ら原告の技術陣を誘って、同人らに同社工場内で秘密裏に高速成形機の製作を行わせ、これが完成するや原告を退職させて右三名を雇い入れ(特に小梶孝一は専務取締役として)、更に原告の専務取締役営業本部長その他の営業担当者を雇い入れて、原告の得意先に対し、原告と同一のオメガ型フレキシブルチューブをより安価に納入できると称して競争行為を行うに至った。

そこで、原告は、昭和五六年九月、サンコー株式会社及び小梶孝一らに対し、不正競争行為禁止等仮処分の申立てをした(大阪地方裁判所昭和五六年(ヨ)第三七七七号)。右仮処分事件係属中の昭和五七年四月一九日、サンコー株式会社及び小梶孝一らは、小梶孝一らが原告の従業員として知りえたオメガ型高速成形機に関するノウハウを流用して成形機を製作したことや不正競争行為を行ったことを認めて謝罪し、以後原告の承諾なしに右成形機と同一又は類似の成形機を製作しないこと等を約したので、原告は右仮処分の申立てを取り下げた。

ところが、小梶孝一は、その後サンコー株式会社を退職して被告に入社し、原告の承諾なしにオメガ型高速成形機と同一又は類似の成形機を製作しないとの右約定に反して、被告に右高速成形機製作に関するノウハウを開示したので、被告は右高速成形機の類似品を完成するに至った。被告は右功績により小梶孝一を専務取締役に迎え入れた。そして、被告は、昭和六〇年頃から被告製品に「オメガチューブ」の表示を使用するに至った。

なお、被告は、右のように「オメガチューブ」の表示を使用する前の昭和五七年から、前記(二)のとおり柔軟性のあるチューブについて原告に無断でオメガの呼称を使用していたのであるが、このことにつき、被告代表者は、他社が新製品を作ったときにその名称を模倣することはよくあることである旨供述しているのであって、原告製品が有名になったのでこれとの誤認混同を狙ってオメガの呼称を使用したことが容易に推測できる。

3 被告型式番号について

(一) 被告型式番号は原告型式番号と同一である。

被告型式番号は原告型式番号を模倣したものであり、次のとおり形状、接続金具の種類が原告の製品と同一又は類似の多数の商品について、原告と同一の型式番号を被告のカタログに登載して使用している。

(1) 接続金具がメタルタッチ式の一つ山タイプのフレキシブルチューブについて、「TF一六〇〇」の型式番号

(2) ユニオン継手をルーズ取付けするフレキシブルチューブについて、「TF一〇〇〇」の型式番号

(3) JIS一〇Kフランジ付フレキシブルチューブについて、「TF三〇〇〇」の型式番号

(4) ニップルをチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて、「TF五〇〇〇」の型式番号

(5) 接続ねじにPTを使用し、袋ナット金具をチューブに突き合わせ取付けするフレキシブルチューブについて、「TF七〇〇〇」の型式番号

なお、被告は、そのカタログにおいて、フレキシブルチューブの「正しい取り付け方」等の部分において、原告のカタログを剽窃している。

右五例を含む同一型式番号を用いた原告の製品と被告の製品とを比較すると、原告の製品はひだの形状が均一のオメガ形(球状)のものであるのに対し、被告の製品はひだの形状が均一でなく、この結果、柔軟性、振動吸収性の性能が劣り、また、被告の製品の取付金具は二級品である。

しかるに、被告は、同一型式番号を使用することにより被告の製品をもって原告の製品と同一品質のものと誤認させ、原告の製品より安く納入できると告げて不正競争を行っている。同業他社が原告型式番号と同一又は類似の型式番号を使用していないことはいうまでもない。

(二) 被告は、被告型式番号は訴外会社の使用していた型式番号を引き継いだものである旨主張するが、被告は訴外会社と何の関係もなく、右の引継ぎなるものが正当な権原によるものでないことは後記三【原告の主張】1記載の事情から明らかである。

原告と訴外会社は、昭和四九年七月の本件和解契約によりパンフレット、カタログを改訂することを約したところ、訴外会社は右約定に従い、型式番号に「TF」を使用せず(訴外会社の昭和五〇年一二月以降のカタログである)、他方原告は引き続き型式番号に「TF」を使用したから、原告と訴外会社との間で型式番号の誤認混同という事態は生じなかったのであり、また、このことから、被告型式番号が訴外会社の型式番号を引き継いだものでないことも明らかである。

なお、原告のカタログは、被告主張の加藤伸哉ではなく、原告の設計部の松本貞蔵(昭和四七年二月入社、昭和五九年三月退職)が昭和四七年に最初に制作したものであり、以後中沢保が改訂しているものである。

(三) 被告が被告型式番号「TF一六〇〇」を使用していることは、被告の不正競争目的を端的に示すものである。

すなわち、「TF一六〇〇」は、原告においても被告においてもメタルタッチ式フレキシブルチューブを指している。原告は、昭和四八年七月、メタルタッチ式フレキシブルチューブを開発し(前記一【原告の主張】1(四)(1)(イ))、フレキシブルチューブTF一六〇〇の型式番号を使用して昭和四八年以降製造販売を行っており、これは非常なヒット商品である。訴外会社は本件和解契約後「一六〇〇」という型式番号を使用したが、これはメタルタッチ式ではない。また、被告は、設立後少なくとも昭和五七年一一月までは「一六〇〇」という型式番号は使用していなかった。ところが、被告は、昭和五八、九年頃から、カシメ方式で原告の「TF一六〇〇」のフレキシブルチューブとは若干変えたメタルタッチ式フレキシブルチューブを製造し、「TF一六〇〇」という原告と同一の型式番号を使用している。右のうち「一六〇〇」という数字は原告が任意に選択したものであるから、被告が右型式番号を使用しているのは原告の型式番号の模倣以外ではありえない。被告が故意に原告のヒット商品と同一型式番号を採用したことは、原告の製品との混同を意図するもの以外の何ものでもない。原告は、昭和六〇年当時、右型式番号の被告製品が原告の実用新案権を侵害するものである旨の警告を発したのであるが、同時に右行為は不正競争行為にも該当する。

【被告の主張】

1 被告商号について

取引者、需要者は、何ら誤認混同することなく原告と被告とを区別してきたものである。

そもそも「株式会社東京フレックス製作所」は、原告の代表取締役であった三隅田の意思により、東京地区に訴外会社、大阪地区に原告というようにそれぞれ一社ずつ設けられたものであって、原告は、昭和四九年八月一日の商号変更の際、東京地区に「株式会社東京フレックス製作所」という別法人(訴外会社)が残ることを当然承知の上で、原告の商号を現在の原告商号に変更したものである。その商号変更の理由につき、原告は、訴外会社との誤認混同を避け、別会社であることを対外的に明らかにするためであると主張するのであるから、訴外会社「株式会社東京フレックス製作所」と原告との間で誤認混同は生じないと判断する原告の主観では、訴外会社の商号とは「製作所」という文字がない点だけで異なる被告と原告との間でも誤認混同は生じないと判断するのが素直であろう。誤認混同のおそれがあるとする原告の主張が正しいとすれば、昭和四九年の原告商号への商号変更自体が、訴外会社との誤認混同を生じさせるためになした行為ということになり、原告の主張自体に矛盾がある。

市場において、「東京フレックス工業株式会社」(被告の旧商号)と「トーフレ株式会社」(原告商号)が約一四年間同時に存在し、「株式会社東京フレックス」(被告商号)と「トーフレ株式会社」が平成三年四月から同時に存在しているが、この間、需要者において原告であると誤解して被告に注文をしたり、逆に被告であると誤解して原告に注文をしたということはない。螺旋管の需要者は、前記一【被告の主張】2記載のとおり官公庁、大手企業であり、一般消費者とは異なり、情報収集能力を有するものである。

2 「オメガチューブ」の表示について

(一) 被告が「オメガチューブ」の表示を使用するようになったのは、前記一【被告の主張】3(一)記載のとおり原告が官公庁のフレキシブルチューブ新規登録の際、「『オメガ形状』はフレキシブルチューブの形状(S字形状)をいう」と申し立て、いくつかの官公庁がこれを工事仕様書に掲載したため、官公庁から受注するためやむなくしたものである。

(二) 原告は、被告が原告の製品ではないものを原告の製品であると偽り、これと被告製品を比較すると被告製品は耐蝕性などが優れているという検査結果を提出して取引を勧誘した旨主張するが、そのような事実はない。新日本製鉄株式会社から被告に対し、同社に納入された原告のフレキシブルチューブに問題が生じたので調査してほしいとの依頼があったものであり、被告が同社を勧誘したことは一切ない。被告は、右調査を第三者に依頼し、その調査結果をもとに新日本製鉄株式会社に報告書を提出したものである。仮に被告が虚偽の報告をし、これが判明したとしたら、被告は逆に社会的信用も取引先も失うことになるのであり、そのような危険を冒してまで被告が虚偽の報告をするわけがない。

(三) 原告が、被告製品は原告製品の類似品であるとして被告が被告製品を製造するに至った経緯について主張するところは、事実に反する。

前島は、原告の従業員であった当時、退職まで一貫して営業部に属し、当初二年本社営業部に勤務し、その後、岡山、東京と転勤したため、原告の工場に出向いたのは得意先を案内するときに限られていた。しかも、当時の原告の製品のノウハウは、三隅田が個人経営していた滋賀県守山市のステンレスパイプ製作所がすべて管理し、工場勤務者でさえ右ステンレスパイプ製作所への出入りを禁じられていた。したがって、前島は、原告の販路、得意先等には明かるかったが、技術の内容はほとんど知らない状態であった。

原告を退職した後被告に入社した従業員は別紙記載のとおりであるが、原告における勤務地と同一地域で被告に入社した者は営業部に属している四名のみであり、しかもそのうち三名は原告から退職勧告を受け、やむなく被告に職を求めてきたものである。残る一名は、原告の得意先が倒産した際、債権回収のため同社から財産を不法に持ち出すことを強要されたため退職を決意し、被告の従業員である友人を通じて職を求めてきたものである。技術社員については三名であるが、すべて原告を退職後三年余を経過してから被告に入社しており、原告退職直前その要職にあった加藤伸哉は、退職後五年以上経過してから被告に入社している。

昭和五六年八月、原告に勤務していた製造担当専務取締役、営業担当常務取締役、技術部長及び部課長四名を含む合計一七名が一挙に原告を退職し、出入業者のサンコー株式会社に入社し、直ちにフレキシブルチューブの製造に着手した。これを知った原告は、サンコー株式会社に対し不正競争行為禁止等を求めて提訴したが、サンコー株式会社に入社した右原告元幹部らは、前島ほか原告を退職した者らに対し、原告の技術はその大半が従来から存在する製法で、誰でも自由に使用できるものであるので不正競争行為に該当しないと説明し、その後の資材購入等の協力を求めてきたという経緯がある。

3 被告型式番号について

(一) 原告のカタログの原本は訴外会社が制作したものである。本件和解契約前は、原告は生産を主体としており、技術資料に関するものはすべて訴外会社に依存していて、原告においてカタログを制作することは困難であったからである(訴外会社には、業界大手の国産螺旋管製作所から昭和四三年に入社した同社の元設計課長、設計経験者及び営業課長並びに東螺工業から入社した同社の元設計技術者、営業社員及び技能社員が数名在籍していたのに対し、原告には、技術系高校卒業のトレーサー二名が在籍していたものの、当時はまだ入社一年以内であり、それより以前には協和製作所から入社した技術者がいたが、フレキシブルチューブの技術に乏しく一年くらいで退職していた。)。

昭和四九年七月の本件和解契約後に初めて、同年三月入社の技術社員加藤伸哉が原告の現在のカタログの基礎になるものを制作した。一方、訴外会社は、型式番号を変更するには官公庁、大手需要者に提出した図面の交換等、作業が膨大になるため、従来の型式番号を踏襲した。被告はこれを引き継いだものである。

このように被告は訴外会社の使用していた型式番号を踏襲せざるをえない事情があったため現在まで使用しており、したがって、被告型式番号が原告型式番号と類似している部分があることは認めるが、被告代表者があえて原告型式番号と同一にすると宣言した事実はないし、被告型式番号は原告型式番号を模倣したものでもない。型式番号は商品取引上便宜的に使用しているものであり、模倣することによる被告の経済的利益又は効果は一切ないから、模倣することはありえない。

(二) 原告は、被告の製品が性能において劣る二級品であるかのような主張をするが、中傷にすぎない。前記のとおり原告や被告の製品の需要者(ユーザー)は官公庁、大手企業であり、官公庁では厳しい検査を受けてようやく認定されるし、日本の企業は品質について特に厳しく、粗悪品を納入すれば即刻取引停止となる。このような中で被告が短期間で業績を伸ばしてきたのは、被告の製品の品質の高さによるものにほかならない。原告主張のように性能において劣る二級品を安く販売する方式では、到底現在のような業績は上げられなかったはずである。

被告の型式番号全体のうち、原告型式番号と類似する部分のある被告型式番号は三〇パーセント弱である上、需要者は、通常数種類の製品をまとめて型式番号、略号及び呼称で商品を特定して注文し、一種類だけを型式番号だけで特定して注文することはない。したがって、原告の製品と被告の製品とを誤認混同して購入する需要者は皆無である。

(三) 原告主張の昭和六〇年における警告に対しては、被告が「フレキシブルチューブTF一六〇〇は当該実用新案権の考案の技術的範囲に属さないから、実用新案権を侵害しない。また右実用新案権の考案の内容は出願前に周知の技術又は公報によって開示された技術であり、その実用新案登録には無効事由があるから、場合によっては無効審判を請求する」旨回答したところ、原告からは何の返答もなく今日に至っている。

4 原告の営業上の利益が侵害されるおそれについて

営業上の利益が侵害されるおそれがあるというためには、社会通念上、営業上の利益が侵害される可能性が確実であると認識される事情が存在することが必要であり、単に損害が発生するであろう、あるいは単に損害が漠然と予測されるというだけでは足りないことはいうまでもない。原告の業績が落ち込んだとしても、その原因は、原告製品の品質と営業姿勢という原告自身の責に帰すべき事由にあるのであって、何ら被告に関係のないことである。

三  争点3(被告には被告商号の使用について商法二〇条一項にいう「不正ノ競争ノ目的」があるか)について

【原告の主張】

1 被告設立の経緯と不正競争目的

(一) 被告設立の事情について、被告は、訴外会社の従業員が不景気のため再就職ができず、大半は失業保険を受給していたところ、昭和五二年七月、前島と右従業員との間で会社再建の意味で新会社を設立しようという構想が生まれた旨主張するが、真実は、右のような単純な美談ではない。

被告の設立は、高利金融業者の東京アイチ株式会社の肝煎りによるものである。東京アイチ株式会社は、被告の設立時の資本金一〇〇〇万円の半額を出資しており、当然、被告においては東京アイチ株式会社の意向が重視される。被告の代表者は、当初武村一隆であったのが設立後わずか三か月で前島に代わっているが、これも東京アイチ株式会社の意向によるものであることはもちろんであり、東京アイチ株式会社と前島の親密さが窺える。

(二) 前島らは、新会社(被告)が訴外会社の事業を引き継ぎ収益を上げて訴外会社の債務を弁済すると申し出て、その債権者の協力を求めた(なお、訴外会社の債権者委員会の報告書には、「いわゆる新会社による弁済も期待薄である。」という、被告が弁済申入れをしたことを前提とした記載がある。)。

(三) 被告は、訴外会社の船橋工場と千葉工場の機械設備、材料仕掛品、半製品を使用して製品を作り、これを売却し、また、訴外会社の売掛金を回収した。右事実は、訴外会社の破産管財人が昭和五三年一月一九日付で破産裁判所に提出した報告書中の「昭和五二年八月二五日従業員が中心となって東京フレックス工業株式会社(以下新会社という)が設立され今日に至っている。」「右新会社及び破産会社が倒産後回収した金員の明細の調査を要する。」「新会社が使用した破産会社の材料、完成品の明細の調査を要する。」との記載や、同じく昭和五八年二月一五日付報告書中の「本件に於て、破産財団の中で一番大きな位置を占めるのは東京フレックス工業株式会社である。右会社は、破産会社の労働組合員の一部によって本件倒産直後に設立され営業を続けてきた会社である。設立後、破産宣告まで破産会社の在庫を使用して生産販売をなしていたため、この損害賠償その復原が困難を極めた。(消費した材料の資料は虚偽に満ちていたりして)」との記載から明らかである。

右のとおり被告が訴外会社の機械設備、材料等を使用して製造した製品を売却したり、訴外会社の売掛金を回収したりしたことによる収益は、訴外会社の一般債権者への弁済には充てられず、大半は東京アイチ株式会社への弁済に充てられたため、訴外会社の一般債権者が憤慨し、訴外会社は破産宣告を受ける事態となったものである。

(四) 破産管財人は、取引停止処分(昭和五二年六月)から破産宣告までの期間が長かったこと、右期間中の昭和五二年八月二五日に設立された被告が前記のとおり訴外会社の機械設備、材料等を使用して製造した製品を売却し、訴外会社の売掛金を回収したことから、被告に対する損害賠償請求に没頭したが、被告には誠意がなく、被告の提出した「消費した材料の資料」が虚偽に満ちていたりして困難を極め、最終的には、訴外会社の破産宣告後一年以上経過した昭和五三年一二月一八日になってようやく、被告が、破産管財人に対し、前年度の在庫を基準にして計算する方法で七三〇〇万円を分割支払することで決着した。

訴外会社の破産管財人と被告との関係は右に尽きるのであって、一言でいえば、訴外会社の商品、原材料、売掛金を不法に取り込んだ者(被告)と、その責任を追及する者(破産管財人)との損害賠償の関係にすぎない。

被告は、本件訴訟において、後に撤回したものの、当初は、「訴外会社の倒産は昭和五二年二月であり、同年七月に破産宣告があって、同年七月訴外会社の従業員約九〇名と前島の間で新会社(被告)を設立しようという構想が生まれ、訴外会社の破産管財人に相談して、訴外会社の機械設備や製品、材料の代金を支払うことで同管財人から設立を承認され、社名についても同管財人から「東京フレックス株式会社」を号することの了承を得たので、昭和五二年八月二五日被告を設立した。」等と、破産宣告の時期を被告設立の時期より前に遡らせることにより、同管財人との敵対関係を友好関係にすり替えるまことに悪質な主張を平然と行っている。

2 前島の原告退職と不正競争目的

被告が不正競争目的を有していたことは、前島が原告を退職する経緯からも明らかである。

前島は、昭和四九年七月以降、原告東京支店の支店長の職にあったが、昭和五二年五月、東京支店の営業部員の全員(五名)を連れて原告を退職した。

右行動は、原告東京支店の壊滅に直結するものであって、背任的行為である。前島は、被告代表者尋問において、右のような行動をとった理由として、訴外会社と原告との間で昭和四九年五月紛争が発生し、同年七月以降は別個の会社として競争関係にあったのに、原告の経営陣が内密に訴外会社に商品を販売していた事実が判明したからである旨供述するが、そのようなことは支店長として到底許されない右背任的行為を正当化するものではないし、訴外会社と原告との間の紛争の深刻さの度合い、本件和解契約後両社間には全く取引がなかったこと等からみて、前島の供述するような事実はありえない。

前島の右のような異常な退職の真の目的は、原告東京支店の営業部の部下を率いて商事会社を設立し、訴外会社から商品を仕入れて原告の従来の得意先に販売することにある。

結果的に、前島は訴外会社の経営陣に欺された形となり、右計画は一度は水泡に帰したが、右行為はまさに不正競争行為そのものであり、現在の不正競争行為の出発点となっているものである。

【被告の主張】

被告が被告商号を使用するについて不正競争の目的がないことは以下の事情から明らかである。

1 被告設立の経緯は、次のとおりである。

(一) 被告は、昭和五二年六月一〇日に取引停止処分を受けた訴外会社の従業員との話合いにより同年八月一五日設立された会社である。すなわち、訴外会社の従業員約九〇名は、不景気のため再就職ができず、大半は失業保険を受給していたところ、昭和五二年七月、前島と右従業員との間で、会社再建の意味で新会社を設立しようという構想が生まれたものである。商号については、全く別のものも候補に上がったが、賛同する者がほとんどなく、大多数が賛同した「東京フレックス工業株式会社」に決定した。

(二) 訴外会社は、倒産当時五億円以上の債務があり、売掛金債権は手形不渡事故を起こす以前に街の金融会社に譲渡されており、機械設備等にも同様に譲渡担保権が設定されていた。

また、訴外会社は千葉県船橋市に工場(約四〇〇平方メートル)、土地(七一〇平方メートル)を所有していたが、既に金融機関のために時価以上の金額を被担保債権とする抵当権が設定されていた。千葉県山王町にあった訴外会社の主力工場は、賃借しているものであった。両工場とも、訴外会社が不渡事故を起こした直後に債権者である街の金融会社によって占拠され、以後昭和五二年八月頃まで占拠が続いた。

(三) 訴外会社の破産管財人である平田英夫弁護士は、螺旋管業界に疎く、苦慮していたため、当時まででも同業界に一四年間勤務しており事情に詳しかった前島は、右破産管財人からいろいろと相談を受けた。

破産宣告のあった昭和五二年一一月二一日の時点では、事実上の倒産前後におけるどさくさまぎれの工場からの物品の持出し、その一時的な移転、労働組合による使用、訴外会社による使用などがあり、訴外会社の製品、半製品等の実態が不明であった(被告が保管のために一時移転した工場の部品等は、同年一二月五日までに段階的に工場に返還した。)。工場の機械設備等については、工場が占拠されていること、帳簿価格が一億数千万円であるのに、購入を希望する同業者の提示価格が最高でも二〇〇〇万円であることなどから、他に売却することは不可能な状況にあった。

前島は、破産管財人から、有償で機械設備等、製品及び半製品、部品の価格調査を依頼されたので、調査したところ、約一億円程度と判明した。但し、機械設備については、専用機械であるため判定不能と報告した。

そこで、破産管財人は、破産財団形成のため、以下の条件で機械設備、製品、材料等の売却先として被告を選定したのであり、被告は、破産管財人との間の契約に従って訴外会社の資産を取得したものであって、何ら非難されるべきことはない。

(1) 経営可能となるまでは、訴外会社の経理担当取締役であった武村一隆を被告の代表取締役とする。ただし、同人は会社の運営について直接かかわらないものとするが、毎日一定時間(約一時間)出社する。

(2) 使用製品材料等の代金六八〇〇万円の支払について、前島が個人保証をするため、前島の自宅の土地建物に抵当権(被担保債権額五〇〇〇万円)を設定する。

(3) 被告は破産管財人に対し、機械設備及び使用製品材料等の代金として昭和五五年八月末日限り総額金八三〇〇万円を材料使用の割合に応じて分割して支払う。

(4) 訴外会社の売掛金債権の回収に協力する。

2 被告が原告の従業員を特別に誘引したり、被告の従業員が被告は原告の兄弟会社又は代理店であることなどと述べたことはない。被告は設立時には原告に比べ経営基盤が劣っており、賃金も原告に比べ二〇パーセント以上も低い状態だったのであって、このような条件で被告が原告の従業員を誘引することは不可能である。原告を退職して被告に入社した従業員が十数人いるが、昭和四八年に前島とともに退職した原告東京支店の六名を含め、原告の経営方針(経営内容に虚偽があり、他社に対する誹謗中傷があり、古参社員を意識的に退職に追い込むなど)に不満をもって退職し、自分の意思に基づいて被告に入社したのである。これらの従業員はもちろん、これらの従業員からその退職の経緯を聞いた他の従業員にしても、原告と関連がないことを得意先に述べることはあっても、逆に関連があるような発言をすることは、心情的に考えてもありえない。

のみならず、被告設立当初、前島は原告の得意先を極力避けて営業するよう部下に指示していた。原告は過去に同業他社を誹謗する文書を配布したことが幾度かあり、訴外会社と分裂した当時も、得意先に対し訴外会社を誹謗するよう社員に強制したこともある。被告は設立当時、業績においても規模においても原告とは格段の差があった上、原告と競合すると原告から誹謗中傷を受けることが予測されたため、極力競合を避けようとしたものである。

被告は、平成三年度の売上評価額で三九億六五〇〇万円を売り上げ、従業員一八六名、三支社六営業所、三工場及び中国天津の海外工場を有しており、工場の総面積、営業人員、技術人員において原告を超えているのは周知の事実であるから、原告と密接な関係があるなどと嘘を言うメリットは全くない。

四  争点4(「オメガチューブ」の表示は、不正競争防止法一一条一項一号にいう普通名称に該当するか)について

【被告の主張】

取引界において商品の一般的な名称として使用されているもの、すなわち不正競争防止法一一条一項一号にいう商品の普通名称を使用する行為は、他人の商品表示を侵害する行為ではなく、この独占的使用を認めることが逆に商品流通市場を害することになる。この商品の普通名称とは、一定の商品について取引者、需要者の間で使用されている呼称であれば足りる。

「オメガチューブ」の表示は、昭和六〇年に原告の申立てによっていくつかの官公庁が工事仕様書にフレキシブルチューブの形状(S字形状)を「オメガ形状」と掲載したため(前記一【被告の主張】3(一))、官公庁の工事仕様書に精通すべき螺旋管業界の各業者、需要者からなる取引市場において、商品の普通名称として認識され、使用されているものである。

【原告の主張】

被告の主張は争う。

五  争点5(被告は、被告型式番号についていわゆる先使用権を有するか)について

【被告の主張】

被告は、原告型式番号が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得したと原告の主張する昭和五二年八月より前から訴外会社が使用していた型式番号(被告型式番号を含む。)を引き継いで設立当初より使用しているものであり、原告の信用を利用して不当に利益を得ようとする目的などなく、善意に被告型式番号を使用しているものであるから、これを継続して使用することが許されるものである。

【原告の主張】

被告の主張は争う。

被告は訴外会社と何の関係もなく、被告のいう引継ぎなるものは正当な権原によるものではない(前記二【原告の主張】3(二))。

六  争点6(原告の本件請求は、信義則に反し、権利の濫用に当たるか)について

【被告の主張】

1 被告商号について

(一) (不正競争防止法二条一項一号、三条関係)

仮に新聞報道によって原告商号が原告主張のとおり周知性を取得したとしても、事実に基づかない報道(原告製品についての発明功労賞は、原告が自らこれを発明、開発したのでないにもかかわらず、受賞したものであること、日本のフレキシブルチューブの製造はほとんど欧米の技術の模倣から始まっており、原告が開発した旨主張する技術も欧米で既に考案、開発されたものであることは、前記一【被告の主張】のとおりである。)を繰り返すことによって周知性を得たものであるから、公正な営業行為を保護するため信義衡平の原則に反する競争を排除しようとする不正競争防止法二条の趣旨に照らし、原告による被告商号の差止請求自体、信義則に反し、権利の濫用として許されない。

(二) (不正競争防止法二条一項一号、三条及び商法二〇条一項関係)

原告は、昭和四九年八月一日から現在の原告商号で存在し活動を続けており、被告が昭和五二年八月二五日から「東京フレックス工業株式会社」の商号で営業活動を営んでいることを昭和五二年から知っていた。被告は、平成三年四月二日に商号を現在の被告商号「株式会社東京フレックス」に変更したものの、主要部分において共通する商号を昭和五二年から使用していたのに、それを原告が現在に至って突然問題にすることは信義則に反する。

2 被告型式番号について

被告は、昭和五二年八月二五日の設立当初より、訴外会社から引き継いだ型式番号(被告型式番号を含む。)を使用して営業活動を行っており、原告はその主張によっても、被告による右型式番号使用の事実を昭和五六年には知っていたというのである。

被告が昭和五二年から継続的に行ってきた行為を原告が現在になって突然問題にするのは信義則に反する。

3 原告の主張について

原告は、被告が訴外会社の債権債務を引き継いで設立された会社であると誤解していたことから提訴が遅れたなどと主張する。

しかし、被告は、機械設備、製品、材料等の売買の交渉、債権届出その他の破産手続への関与は、旧商号「東京フレックス工業株式会社」を用いて行っており、これについて訴外会社の破産管財人、原告を含む破産手続への関与者、その他の第三者から異議を唱えられたことは一切ないのであり、右商号の使用は原告との間においても当然に許容されていたものである。業界第一人者と主張する原告ほどの会社が、破産手続の理解を誤るとは考えられない。また、引抜きその他人事交流の激しいこの業界では、他社の内部事情は筒抜けの状態にあり、原告は当然に被告と訴外会社との関係は知っていたはずである。

【原告の主張】

原告の本件訴えの提起が遅れた理由は以下のとおりであるから、信義則に反するとか権利の濫用に当たるということはない。

1 原告は、訴外会社が昭和五二年六月倒産したことは知っていたが、原告自身は訴外会社と取引がなく、その債権者ではなかったことなどから、倒産に至った事情や、その後に設立された被告と訴外会社との関係は全く知らず、被告は訴外会社の債権債務を引き継いで設立された会社であると理解していた。

訴外会社の債権者であった小川維運からそのように聞いていたし、被告自身もあたかも訴外会社の債権債務を引き継いだかのような態度をとっていた。被告は訴外会社の資産(工場、機械、製品、仕掛品)を使用して事業を再開したのであるから、世間が訴外会社の債権債務を引き継いだ会社であると理解することは当然である。

2 また、原告は、被告が原告と同一の型式番号(被告型式番号)を使用してフレキシブルチューブの販売を行っていることは、昭和五六年頃には知っていたが、当時は原告と被告との間には規模において大きな相違があり、具体的被害が生じていなかったし、訴外会社との間の本件和解契約において型式番号の使用を禁止する旨の取決めがなかったため、訴外会社の債権債務を引き継いだ被告が同一型式番号を使用することもやむをえないと考えていた。

ところが、被告は昭和六〇年頃小梶孝一を迎え入れ、同人が原告の技術担当専務取締役として知得したオメガ型高速成形機製造に関するノウハウを被告に開示したので、被告は右高速成形機の類似品を製造し、「オメガチューブ」の表示を使用して原告製品の類似品である被告製品の販売を行うようになり(前記二【原告の主張】2(三))、原告は具体的な被害を受ける状況となった。また、最近に至って、被告の販売担当者が原告の得意先に対し、同一型式番号を使用することにより被告製品をもって原告製品と同一品質のものと誤信させ、原告より安く納入できると告げて不正競争を行っていることが判明し、放置できない状況になった。

3 原告は、訴外会社と特殊な関係にあったこと、被告は訴外会社の債権債務を引き継いだ会社であると信じていたことから、被告が「東京フレックス製作所」「東京フレックス」の商号を使用することや、被告型式番号を使用することを阻止できないのではないかと考え、本訴提起を躊躇していたが、訴外会社は破産宣告を受けた会社であって、被告はその債権債務を引き継いだ会社ではなく、法律上無関係であることが判明したので、本訴提起に至ったものである。

七  争点7(被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 被告商号の使用による損害の具体例

被告商号が原告商号と類似しているため、取引者及び需要者が原告と被告を誤認混同している事例が多々存し、原告は種々の損害を被っている。

(一) 原告が最も深刻な被害を受けるのは、被告がその製品の欠陥等から事故を起こした場合に、これが誤って原告の事故と受け取られ、原告が信用を失墜し、取引機会を逸することである。

すなわち、被告は、大成建設株式会社が請け負ったディスカウントスーパーの建築工事において、スプリンクラー回りの配管用のステンレス鋼製フレキシブルチューブ(以下「SPフレキ」と略称する。)を納入したが、平成四年九月一九日、二六日、三〇日、一〇月六日にスプリンクラーヘッドの取付け側(レデューサー側)で発生した腐食(隙間腐食)が原因の漏水事故が発生した(以下「本件漏水事故」という。)。そのため、被告は、大成建設株式会社との取引を停止された。

そして、被告商号が原告商号と類似しているため、需要者の間で、本件漏水事故を起こし取引停止を受けた会社は原告であると誤って受け取められ、その結果、原告は、信用を失墜し、具体的に次の(1)ないし(4)のような、取引機会を逸する等の多大の損害を被っている。被告は、本件漏水事故の原因は金具、すなわち住友金属工業株式会社製のステンレス鋼管に不具合があったことによる旨主張するが、「東京フレックス製フレキ巻出し管クレームの件処理経過覚書」等の記載からすると、被告の過失によるものであると推定される。《証拠省略》によっても、右被告の主張は失当である。仮に本件漏水事故について被告に責任がなかったとしても、被告の類似商号の使用によって原告が被害を受けたことに変わりはない。

(1) 原告は、平成五年二月一六日当時、後藤設備工業株式会社から、NTT基町現場にSPフレキを納入することについて確約を得ていたが、同年三月四日、突然採用取止めとなった。これは、本件漏水事故は原告が起こした事故であると誤って伝えられたためであることが判明したので、原告は、同月一一日同社に事情を説明し、誤解は解いたものの、同社から既に五十鈴工業に発注しているので変更できないと言われた。そのため、原告は、同現場に予定のSPフレキ八〇〇〇本を納入することによって得られたはずの、販売代金三〇八〇万円の二五パーセント相当額七七〇万円の販売利益を喪失した。

(2) 原告は、代理店を通して、SPフレキ販売業者のニトックス株式会社に原告の製品を納入していたが、平成五年二月、同社が本件漏水事故を原告の事故と誤解したため、羽田ターミナル向け二〇〇〇本、代金三六〇万円分のフレキシブルチューブの納入が取止めとなり、その二五パーセント相当額九〇万円の販売利益を喪失した。なお、原告は、その後事情説明をして、同社への納入を再開している。

(3) 平成五年一月一九日、原告九州支店の担当者がSPフレキのPRに三機工業株式会社を訪問した際、「トーフレのSPフレキ使用不可の通達が大成建設から回っているので、使用できない。」と言われたため、原告は、誤解を解くために多大の努力を余儀なくされた。

(4) 原告は、平成五年二月、大林組からSPフレキに関して問い合せたいことがあるとの呼び出しを受けたので、担当者が同社に出向いたところ、同社は、本件漏水事故は原告が起こした事故であると誤解していた。

以上の場合は、原告は誤解を解く機会を与えられたものであるが、そのような機会を与えられない場合が大半であり、被告による本件漏水事故が原告の事故であると誤解されたことによる損害は多大なものである。

(二) 原告は、被告の製品について、被告と原告を混同した需要者から苦情や呼出しを受けたため、これに社員を派遣して経費相当額の損害を被っている。

(1) 平成五年六月八日、エイト産業株式会社から製品の不良で水漏れが発生したとのクレームがあり、呼出しを受けたので、原告担当者が現場である西新橋共同ビルに行き調査したところ、被告の製品(商品名ハイポン)の欠陥で水漏れのあったことが判明した。

(2) 平成五年六月一六日、日章紙工株式会社から「ユニオン型フレキシブルチューブが取り付けた後二日で壊れた。」との連絡があったので、原告担当者が同社に行ったところ、段ボール製造機ドライヤー用蒸気配管ラインに取り付けた被告のフレキシブルチューブであることが判明した。

(三) 原告は、そのほかにも、被告商号が原告商号と類似していることにより、次のような多様な損害を被っている。

(1) 原告は、昭和四八年、三菱化成株式会社直江津工場に対し、原告の旧商号「株式会社東京フレックス製作所」が記入された仕様の図面を添付して製品を納入した。同社は、右製品の取替えの時期が来たため、同一製品を発注するに際し、被告と原告を混同して被告に右仕様の図面を送付して発注した。

一度製品を購入した需要者が取替え等のため再度同一製品を注文をすることは多々あり、その場合、仕様の図面を送って注文するのが一般である。被告が設立当初「東京フレックス工業株式会社」の商号を使用した目的の一つは、このような需要者に被告と原告を混同させて、これらの注文の横取りをするためである。

(2) ユニ化工株式会社が原告の製品を注文したところ、中間に入った業者(株式会社ナカシマ)が被告と原告を混同して被告に発注し、被告がこれを納入した。この事実は、その後右製品に錆が発生したとのクレームにより、原告担当者が平成五年七月ユニ化工株式会社に呼び出されて判明した。

(3) トーセキ産業株式会社の責任者が購買担当者に大分発電所向けフレキシブルチューブを原告に注文するよう指示したところ、購買担当者は被告を原告と混同し、被告に発注した。原告はたまたま右事実を知り、二日間にわたって交渉した末、原告に対する発注への切替えに成功した。

以上はたまたま判明したケースであるが、被告と原告を混同し、原告に注文する意思で被告に注文しているケースは多々存するものと思われる。

2 被告型式番号の使用による損害の具体例

被告は、前記のとおりそのカタログ等において原告型式番号と同一の被告型式番号を使用している。需要者は、カタログ又は原告担当者との打合せにより使用条件に合った製品を選定し、違う商品が納入されないよう型式番号で特定した仕様書を作成する。ところが、実際に発注するのは仕様書を作成する者ではなく、ほとんどが購買課など別の部署の担当者であるため、型式番号が同一であると、購買担当者が被告と原告を混同して被告に注文を出すとか、また被告と原告を混同しない場合でも型式番号が同一であることにより同一又は同程度の製品であると判断され、原告は、結果的に受注を失うか、不当な価格競争を強いられるという不利益を被ることになる。原告が特に問題としているのは、「TF一六〇〇」で最も典型的に表れているように、原告製品のステンレス鋼製フレキシブルチューブはひだの形状が均一のオメガ形状であるのに対し、被告製品はひだの形式が均一でなく柔軟性、振動吸収性等の性能が劣り、取付金具も二級品であるにもかかわらず、被告が原告の従前からの得意先に赴いて同一型式番号を使用することによって、原告製品と同一の品質の製品であると誤信させたうえで原告製品より安く納入できると告げて取引を誘引するという不正競争行為を反復継続している点である。

被告の右不正競争によって、原告は、具体的に次の(一)ないし(三)のとおり、従来の取引先を失ったり過当な値引き競争を強いられて損害を被っている。

(一) 原告は、株式会社荏原製作所に対し、毎年、品番「TF一六〇〇型二〇AX一WX四〇〇L」及び「TF一六〇〇型二〇AX一WX五〇〇L」の商品を各一万本納入していたところ、被告が同一型式番号を使用して、品質が同一であると虚偽の事実を告げ、安価に納入できると述べて不正競争を行ったため、原告は昭和六三年から平成五年までの間、同社からの注文を失った。

原告は平成六年には同社からの注文を回復したが、右の六年間に合計一億二三四〇万円の注文を失い、その粗利益(二〇パーセント)に相当する二四八六万円の損害を被った。

(二) 原告は、川崎製鉄株式会社水島製鉄所連鋳整備課から、見積仕様書に「TF五〇〇〇X七〇〇〇、オメガチューブ」と明記された見積依頼を受けたが、右(一)と同様の同一型式番号を使用した不正競争によって被告に合計二〇三万円の右注文を奪われ、その粗利益(三五パーセント)に相当する七一万〇五〇〇円の損害を被った。

(三) 原告は、新日鉄八幡、東京製鉄九州工場、住友金属小倉等の優良企業との納入契約につき、毎年初めに型式番号ごとの単価を決定(単価契約)して行う方式を採っているが、被告から右(一)と同様の同一型式番号を使用した不正競争を挑まれたため、①新日鉄八幡については平成元年から二〇パーセントの値引き、②東京製鉄九州工場については平成三年から三〇パーセントの値引き、③住友金属小倉については平成二年から一〇パーセントの値引きを余儀なくされ、その結果、平成五年末現在で①について一五六〇万円、②について二一六万円、③について六四八万円の損害を被っている。

3 損害額

被告が原告商号と類似する被告商号を使用し、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号と類似する「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号を使用しているのは、広く需要者に認識されている原告の名声、信用を盗用して被告の製品と原告の製品とを誤認混同させることにより原告の顧客を奪って被告の製品を売り込むとか、あるいは原告との間に何らかの密接な関係があるのではないかと誤信させて販路を開拓、拡張しようという不正競争の目的をもってこれを行っているものであること前記のとおりである。

被告は、現在年間売上高が三八億円であるところ、低く見積もってもその一パーセントに相当する純利益は右不正競争行為によって取得したものであるから、原告は同額の損害を被った。よって、原告は、第一次的に、右損害の三年分合計一億一四〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年二月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

原告は、第二次的に、前記1、2の損害の合計五八四一万〇五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年二月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお、原告の平成七年八月三一日付準備書面には、右五八四一万〇五〇〇円の損害の内容を右1(一)の(1)及び(2)並びに2の(一)ないし(三)記載のものに限定するかのような記載もあるが、弁論の全趣旨に照らせば、右金額の範囲内で右1、2記載のものすべてを主張するものと解される。)

【被告の主張】

1 原告の損害の主張について

(一) 原告及び被告の製品を取り扱う取引者及び需要者は、製品の性質上、いわゆる優良企業が多い。

そして、通常の企業であれば、仮に原告と被告を誤認混同して被告と取引をし、それに気付いたのであれば、直ちに本来の取引先である原告との取引に戻るものである。

しかも、原告主張のように製品の性能・品質の点で原告の方が優れているのであれば、仮に原告と被告を誤認混同して被告に注文するようなことがあったとしても、被告との取引を継続することはせず、原告との取引を継続するはずである。

(二) 需要者を欺して品質が悪い製品を買わせることにより業績を継続的に上げていくようなことができないのは、フレキシブルチューブの業界に限ったことではないが、特にこの業界では、取り扱う製品の用途の性質上、高圧、振動、温度変化の著しい状態、腐食に耐えられること等が要請され、品質の不良は重大な事故につながるので、特に品質検査が厳しい。したがって、この業界において業績を伸ばすには、品質のよい製品を納入し、その安全性と機能についての評価を積み重ねていくことが大切であり、品質の悪い製品を出所を偽って納入するなど小手先のごまかしでは取引の継続は不可能である。

被告が業績を伸ばしたのは、被告の製品の品質の高さとごまかしのないまじめな営業活動の結果である。一方で、原告の業績が落ち込んだり伸び悩んだりして損害が発生していたとしても、それは、製品の品質、販売促進に向ける姿勢、他業種への進出の失敗等、原告自身にその原因があり、被告の行為との間には相当因果関係がない。

(三) 被告に対して、原告の製品に限らず、他のメーカーの製品についてのクレーム等が寄せられることがあるが、これは、製品を使用する現場の状況を原因とするものであって、原告と被告の商号を誤認することが原因ではない。

すなわち、フレキシブルチューブ単体で納入されたものであれば、メーカーのラベル表示があるのであるが、一般にフレキシブルチューブは、機械、装置ごとに異なるメーカーの製品を使用することが多く、この場合には、機械、装置自体のメーカーのラベル表示だけが付されているのが通例であって、納入した製品すべてに各メーカーのラベル表示が付されていることはない。特に最終ユーザーがフレキシブルチューブを直接メーカーから購入していない場合には、カタログ等も置いていないため、とりあえず周囲の表示を見て、例えばフレキシブルチューブにメーカーの表示があればそのメーカーにまず問合せをするのである。

2 被告商号の使用による損害の具体例について

(一) 本件漏水事故の関係

本件漏水事故の原因は、被告が納入した製品にあるのではなく、金具、すなわち住友金属工業株式会社製のステンレス鋼管に不具合があったことにある。

原告は、被告が大成建設株式会社との取引を停止された旨主張するが、平成五年、右大成建設株式会社が建設する福岡国際空港ビルの工事において、原告、被告を含む数社の製品の中から被告の製造にかかるフレキシブルチューブが大量に採用されている。また、後記(3)の三機工業株式会社も、平成五年、三重県スペイン村と浜松市アクトシティーにおいて、被告の製品を大量に採用している。右空港ビルのような建築工事においては、特に品質及び実績が要求されるものであり、本件漏水事故が被告の納入した製品が原因ではないこと、被告の製品の品質とその実績が要求水準にある高いものであることを示す証左である。

なお、原告は、本件漏水事故を奇貨として、あえて被告を誹謗中傷し原告の製品の購入を求める文書を配布している。

(1) 後藤設備工業株式会社の件

後藤設備工業株式会社(香川県高松市所在)は、平成四年九月の本件漏水事故の後である平成五年二月に被告の製品を採用している。その際、被告は商品説明を行っており、このとき、原告の製品が株式会社オックスから販売されていること、その製品の内容及び価格について後藤設備工業株式会社から知らされており、同社は原告と被告を誤認混同しているということは一切なく、見積照会時にも原告と被告をはっきり識別していた。

(2) ニトックス株式会社の件

原告主張の時期においてニトックス株式会社が羽田空港で施工したのは格納庫の工事である。同工事にはSPフレキは不要であり、被告からの問合せに対し、原告からは納入を受けていないとの答えがあった。

このときの羽田空港のSPフレキは、別の二社が扱い、しかも、五十鈴工業にメーカーが指定されており、約六〇〇〇本と四〇〇〇本が使用されたが、これとは別に、原告の主張する二〇〇〇本を使用するような工事は行われていない。

(3) 三機工業株式会社の件

原告と被告は、三機工業株式会社九州支店に対し、それぞれ会社案内、製品カタログを用いて会社説明・製品説明を行っている。特に熊本には被告の主要工場と主要営業所があり、会社説明は十分に行っており、三機工業株式会社が原告と被告を混同することはない。

(4) 大林組の件

大林組はSPフレキを五十鈴工業と共同開発しており、原告、被告ともその製品が同社によって採用されることは少ない。

また、被告は、大林組の資材購入担当者において原告と被告の混同がないことを確認した。

(5) SPフレキの形状、工法等

SPフレキは、各メーカーごとに形状及び継手部が異なり、また、付属部品も異なっているため、工法が同一ではない。

例えば、原告、被告、五十鈴工業の製品の差異は左記のとおりである。この製品における被告の価格は、原告の価格より三〇パーセント以上高いが、工法の簡素化と安定度において優れ、多くの需要者、取引者の信頼を得ている。

原告 形状 継手部メタルシール構造(鉄製)

工法 角バーを利用しネジによるセット工法

五十鈴工業 形状 継手部Oリングシール(鉄製)

工法 オクトパス工法

被告 形状 継手部溶接型、ネジシール(ステンレス製)

工法 Cチャンネル、クリップ、ロックナットによるセット

そして、ゼネコン及び設備会社は、形状による信頼性、工法等を総体的に勘案して納入メーカーを決定する。商号あるいは型式番号を誤認したままで注文をしたり、注文を取り止めるということはない。その意思決定を行う各担当者は、原告と被告の商号のみならず、型式番号の判別は十分にできており、原告と被告を誤認する者はいない。

(二) 被告と原告を混同した需要者から苦情や呼出しを受けたこと等による損害

(1) エイト産業株式会社の件

仮にエイト産業株式会社から原告に対してクレームがあったとしても、営繕担当者が製品に施された表示を見落としたためであり、右表示を見て被告と原告を混同したわけではないと思われる。なぜなら、右製品には甲第四九号証の添付写真のとおり被告の会社名と電話番号が明示されており、その記載どおりに電話をすれば被告に連絡できるからである。

被告の製品にはすべて赤いシールで社名、マーク、電話番号等が表示されており、原告の製品にも金ラベルで同様の表示があるのであるから、原告と被告の識別は十分明確にできる。

また、被告の製品であることが明示されているのであるから、被告が責任を負担するのが当然であるのに、原告は被告に連絡せずに原告の製品を納入した。これは、エイト産業株式会社から連絡があったことを奇貨として、被告の納入先に対し、クレームの対象となった製品が被告の製品であることを伏せて、あるいは被告の製品より原告の製品の方が優れていると偽って、原告がその製品を販売したことを窺わせるのであり、この行為こそ不正な販売行為である。

原告は、このケースに限らず、ごく最近に至るまで、被告の取引先に対し、被告及び被告代表者を誹謗する虚偽事実を記載した文書を提示して被告の営業活動を妨害するという、通常の商行為とは考えられない行動をしている。

(2) 日章紙工株式会社の件

日章紙工株式会社の担当者が原告に連絡したのは、被告が納入した製品のラベルに記載された被告の製品である旨の表示を見て誤認したためではなく、直前に原告から納入された製品の事故であると錯覚したためであることが甲第五〇号証に記載されている。商号を誤認したためではない、担当者の単なる勘違いを理由とする出費を被告に負担させる根拠はない。

(三) その他の損害

(1) 三菱化成株式会社の件

三菱化成株式会社直江津工場に製品を納入したのは分裂前の「株式会社東京フレックス製作所」であり、同取引はその東京事業部すなわち訴外会社の商圏に属する取引である。その後の昭和四九年の原告・訴外会社間の本件和解契約により訴外会社の商圏になった。すなわち、もともと原告に発注されるべきものではなく、原告に何ら関係のないことである。

(2) 株式会社ナカシマの件

株式会社ナカシマは、以前原告と取引を行っていたところ、原告は、数年前、姫路市のスーパーマーケットで原告の製品を原因とする漏水事故を起こし、三〇〇万円の損害を生じさせた。ところが、原告は、その対処を怠り、顧客に迷惑をかけ、株式会社ナカシマの信用も損なわせたため、同社から取引を停止された。その後、被告は、株式会社ナカシマから取引を申し込まれ、商社を通じて同社と取引を行っている。株式会社ナカシマは原告と被告を十分識別しており、被告は、同社から、ユーザーが原告の製品を特別に指定しない限り被告との取引を継続する意思であるとの返答を受けている。

(3) トーセキ産業株式会社の件

被告はトーセキ産業株式会社から注文を受けたことはない。被告は、トーセキ株式会社の担当者に直接、同社において原告と被告を十分識別しており、過去に誤認したこともないこと、大分発電所が原告の製品を指定しているので被告には発注できないことを確認した。

3 被告型式番号の使用による損害の具体例について

被告の製造にかかるフレキシブルチューブの形状、性質については、私的な検査ではあるが、原告のそれに比して優れているとの実験結果があり、取付金具の材料もいわゆる一流企業の製品を使用している。原告が、被告製品は性能が劣り、取付金具も二級品であると主張する根拠が全く不明である。

また、製品の価格は、原告、被告に限らず、メーカー各社の商品開発、リストラの成果により決まるものであり、例えば、ここ二、三年で二〇パーセントは低下しており、五〇パーセントの低下を達成した製品もある。

被告が原告より安価に提供できる製品は、被告の生産設備及び生産工法が原告より優れていることによるものであり、正当な企業努力の成果であって、原告から誹謗中傷されるいわれはない。

原告が損害を問題にしている期間について、被告の利益の総額、償却額の累計は、原告のそれに近い数字を示しており、過当な値引きはしていない。

(一) 株式会社荏原製作所の件

株式会社荏原製作所に原告が製品を納入していたことは認めるが(但し、その納入数は原告主張の数量の三分の一足らずである。)、原告の製品にクレームが発生したことから、被告も参入の機会が与えられ、被告の提出したサンプルが株式会社荏原製作所における社内テストで合格し、製品を納入したものである。その間、原告が被告より安い単価を提示したため、被告が単価を下方修正したことがある。すなわち、被告は、株式会社荏原製作所にサンプルを提出し、製品構成の違いを十分に説明して、製品を安く納入できることを示した。正当な企業努力の成果として安価で高品質の製品を納入できることは、何ら非難されるべきことではない。

その後、平成五年後半からは、株式会社荏原製作所の購入部門の見直しにより、原告、被告ともに品質管理による検査に合格しており、同社はより安価な提示をした方に発注している。なお、平成六年には、原告のみならず被告にも発注されている。

(二) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所の件

川崎製鉄株式会社水島製鉄所は、納入メーカーとして登録されたところから購入するシステムであり、被告も登録されている。しかも、原告と被告は取扱商社も異なり、型式番号の誤認による発注は考えられない。

(三) 新日鉄八幡、東京製鉄九州工場、住友金属小倉等の件

これらの企業との取引の実情は、右(二)の川崎製鉄株式会社水島製鉄所の場合と同様である。

(四) 甲第四八号証記載の住友金属工業株式会社和歌山製鉄所の件

なお、甲第四八号証に、被告が被告型式番号を使用したことにより原告が受注できなかった例として記載されている住友金属工業株式会社和歌山製鉄所の件についていえば、同製鉄所では、単価契約以外、発注は平成五年四月以降入札によっており、コード番号付で社名が付された「競争照会」という形で三社以上に見積照会を出し、それに応じて出された見積書によって発注するのであり、型式番号により製品を誤認して発注するということはない。

被告も、「競争照会」ということで原告等と同時に見積書を出しただけである。原告が取引をしていたものを奪ったということではない。

第四争点に対する判断

一  争点1((一)原告商号は原告の営業を表すものとして周知性を取得しているか。(二)「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号は原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得しているか)について

1  《証拠省略》によれば、次の(一)ないし(七)の事実が認められる。

(一) 原告の事業展開

(1) 三隅田は、昭和三四年三月、個人事業の「東京フレックス製作所」を始めた。

昭和三六年当時は、フレキシブルチューブは主として銅を主体とした合金製のものであり、これは耐蝕性、耐熱性に問題があったが、ステンレス鋼製フレキシブルチューブの製造は不可能とされていたところ、三隅田は、昭和三七年頃、ステンレス鋼の極薄管の溶接に成功し、この技術をフレキシブルチューブの製造に導入してステンレス鋼製フレキシブルチューブを完成した。

(2) 三隅田は、右ステンレス鋼製フレキシブルチューブの反響が大きかったことから、その製造が企業として成り立つと判断し、昭和三七年一月一二日、右個人事業の「東京フレックス製作所」を前身として、大阪市西区土佐堀に本店を置いて原告を設立し、東大阪市稲田に工場を設けた。また、三隅田は、原告の製品を専属的に販売し、需要者に対してアフターサービスを行う会社として、大阪市都島区に本店を置く三光商事株式会社を設立した。

原告の事業は順調に発展し、昭和四一年八月、原告は、薄肉ステンレス鋼の焼鈍、酸洗処理工程の際に生じる多くの品質劣化要因を根本的に取り除くためのステンレス鋼製フレキシブルチューブ専用光輝焼鈍炉設備を完成した。

(3) 原告は、昭和三九年九月東大阪市徳庵に素管工場を新設し、昭和四一年に福井市に工場を移転した後は、造管は福井工場(但し、事業主体は三隅田の個人企業)で行い、波付と焼鈍は金沢市内の下請業者に担当させ、徳庵工場では組立を行うこととした。

(4) 原告は、得意先も増え、受注量も増加したため、昭和四四年一月、門真市大字三番に工場を新設したうえ、本店も同所に移転し、更に、昭和四六年頃守山工場を新設した。三光商事株式会社も、原告が実績を上げるに従い営業成績を伸ばし、従業員も増え、本店事務室が手狭になったため、昭和四四年三月、本店を大阪市北区空心町二丁目に移転した。

(5) 原告の資本金は設立当初五〇万円であったが、原告は、事業の発展に伴い、昭和四三年一月一五〇万円、昭和四四年一月の本店移転時に四〇〇万円と増資を重ねた。三光商事株式会社も、設立当初の資本金は三〇万円であったが、昭和三九年六月一二〇万円、昭和四四年一月四八〇万円と増資を重ねた。

原告は、その知名度が浸透したので、昭和四四年一二月一日、三光商事株式会社を吸収合併し、同月五日、同社の本店所在地(大阪市北区空心町二丁目)に本店を移転した。

(6) 原告は、昭和四二年当時既に業界五位の地位にあり、昭和四八年には売上高三六億円で、ステンレス鋼製フレキシブルチューブのトップメーカーとなっていた。

(被告は、昭和三七年当時原告は東大阪市徳庵に本店を置いており、それはわずか三〇〇平方メートルほどの広さであったのであり、フレキシブルチューブの開発、製造には一定の広さの工場が必要であるから、右本店内にそのための機械設備を設置するのは不可能である旨主張するが、甲第三〇号証〔原告及び三光商事株式会社作成の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一五条二項に基づく公正取引委員会宛昭和四四年一〇月二七日付合併届出書〕によれば、原告の設立当初の工場と思われ、昭和四四年当時は大阪第二工場と称されていた東大阪市稲田の工場の敷地は、広さが二六二平方メートルであることが認められるものの、この広さでフレキシブルチューブの開発、製造ができないとの被告主張を裏付ける的確な証拠はない〔大規模に生産できるかどうかは別問題である。〕。

また、被告は、原告の製品は昭和四一年頃に製紙会社にわずかに使用され、昭和四三年頃から徐々に需要が広まり、大手ユーザーに採用されたのは昭和四七年以後であり、原告の売上げも昭和四六年以前は業界ではまだ下位であり、上位の同業者が一〇数社あったとか、原告が昭和四二年当時業界五位ということはありえないと主張するが、右業界での地位については前記公正取引委員会宛合併届出書に記載されているところであり、公正取引委員会宛合併届出書に実績以上の地位を記載することによる利益があるとは考えられず、他に具体的な反証もない。)

(二) AGA認定の取得、米国市場への進出等

(1) 昭和四六、七年当時、米国ではAGA(アメリカン・ガス・アソシエーション)認定の規格がチューブの唯一の規格であったため、原告は、その開発にかかるステンレス鋼製フレキシブルチューブを米国に輸出するため、昭和四六年中に米国において、米国の有力ガス器具メーカーであるドーモント社(ドーモント・マニュファクチュアリング社)を通じて(同社の名義で)テストを受け、昭和四七年一月に我が国メーカーとして初のAGAの規格合格の認定を受けた(その後、CGA〔カナディアン・ガス・アソシエーション〕の規格合格の認定も受けている。)。

原告は、AGA認定の取得に伴い、昭和四七年一月、ドーモント社との間で、米国・カナダ市場を対象に毎月約二万メートルのステンレス鋼製フレキシブルチューブを輸出する旨の五年間の長期輸出契約を締結した。

当時は、先進国の米国においてもステンレス管がガスに使用されることはまれであり(銅や真鍮の製品が主流であった。)、原告の製造にかかるステンレス鋼製フレキシブルチューブがAGA認定を取得して米国及びカナダで販売されることになったのは画期的なことであったので、右事実は昭和四七年三月一五日付空調タイムス、同月一七日付日本工業新聞、同年八月一四日付日経産業新聞に取り上げられた。特に、日本国内においてはフレキシブルチューブについてはまだJIS規格がなく、製品を評価する客観的な基準がなかったことから、米国におけるAGA認定の取得は、原告の国内におけるステンレス鋼製フレキシブルチューブの宣伝広告、販売戦略の上でも意味を有するものであった。

原告は、右の実績を評価されて、昭和四七年五月東京瓦斯株式会社及び大阪瓦斯株式会社から指定メーカーの認定を受けた(但し、東京瓦斯株式会社については、日立製作所の製品として同社を通じて納入するいわゆるOEM方式であり、現在は日立製作所が自ら製造した製品を納入しており、原告は納入していない。また、原告は、大阪瓦斯株式会社についても、現在は納入していない。)。

(2) 原告は、昭和四八年、米国のパックレス・メタルホース社にステンレス鋼螺旋管製造プラント一式とその製造技術を輸出することになったが、これは昭和四八年四月六日付日刊工業新聞、同年五月一日付日経産業新聞で報道された。

(3) 原告は、昭和五〇年六月、工場内・製品などの厳しいチェックを受けた末、AGAから直接(原告自身の名義で)規格合格の認定を受けた。当時我が国でAGAから直接認定を受けているのは松下電器、パロマ、豊和産業、リンナイの四社のみであり、原告は五番目であったこと、日本ではこの時点においてもガス器具に関する規格は設けられておらず、また、右試験においては規格認定だけではなく使用目的による試験も行われるため、技術的にも製品としても客観的な基準をクリアしたという意味を有することから、AGAの直接認定の取得は、原告の国内におけるステンレス鋼製フレキシブルチューブの宣伝広告、販売戦略の上で更に大きな意味を有するものであった。右事実は同年八月二六日付日刊工業新聞で報道された。

(4) 原告は、AGA認定取得の事実を、カタログで積極的に広告し、また、訴外会社の内紛後の昭和四九年七月一二日に原告、三隅田及び株式会社ステンレスパイプ製作所と訴外会社及び伊藤守雄らとの間で成立させた本件和解契約において、「訴外会社は、以後訴外会社の製品について、AGA(アメリカン・ガス・アソシエイション)、CGA(カナディアン・ガス・アソシエイション)認定製品及びこれと類似の名称商標を使用し、又はそれを使用して販売、宣伝したりすること、あるいは訴外会社をAGA、CGA認定工場及びこれと類似の呼称を使用し、又は宣伝することを一切しないものとする。」旨の定め(第七条)をし、また、同月一九日付の挨拶状により、原告の取引先に対し、同年六月一日をもって東京事業部(訴外会社)に対して従来大阪本社(原告)が供給していたAGA認定品のフレキシブルチューブの供給を全面的にストップし、技術的なあらゆる指導を打ち切ったこと、同年七月一二日をもって三隅田の訴外会社取締役の正式辞任ができたので、早速原告の東京支店を開設し、営業活動に入ったが、東京支店には本社(原告)の大阪から従来と同一の世界的水準のAGA認定のフレキシブルチューブを供給すること、原告は、訴外会社とは今後一切関係がないので、訴外会社から納入される製品については技術的な責任を負いかねることを通知した。ちなみに、原告及び被告の同業者である大阪ラセン管工業株式会社も、そのパンフレットにおいて、同社が昭和五三年にAGA認定を取得した事実を掲載している。

(被告は、AGA認定は国内の大手フレキシブルチューブメーカーにとっては比較的容易に取得することができる認定であるとか、原告のようなOEM供給の販売形態では魅力がないとか主張するが、右認定事実に照らし採用することができない。)

(三) 原告製品の開発と「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の使用

(1) 従来、日本においては、口径七五mm以上の金属製フレキシブルチューブの場合、ひだの形状(U字形状)を液圧・水圧方式やローラー板金方式で成形していたが、これらの方式では、内圧やローラーでU字形の山と谷を絞り込んで成形するため、偏肉を起こしやすく、チューブの肉厚を薄くするのが困難であった。このため、耐圧性の要求はある程度満たされたものの、余分な肉厚を必要とし、外径及び曲率半径が大きくなるだけでなく、更にテープブレードを使うことによって柔軟性、振動吸収性などが十分ではなかった(ゴム製のフレキシブルチューブでは、逆に、柔軟性には優れるが、耐圧性の点で問題があった。)。

また、フレキシブルチューブは、ブレード(チューブの内圧による推力を受け止めてチューブの伸びを防ぎ、外傷からチューブを保護する役割を果たす。)を巻き、接続金具をつけて完成品となるが、チューブをワイヤ又はリボンのテープブレードで巻く造管工程は手仕上げ作業に頼っており、例えば口径一二五mmのチューブにリボンブレードを巻く作業は、一人で二mを巻くのに約五時間を要していた。また、大口径チューブについては、平ブレデッドブレードを使用することが必要とされたが、これを編む機械(ブレデッド・マシーン)は米国のナショナル・スタンダード社(イリノイ州)製しか存在しないという状態であった。

(2) 原告は、昭和五〇年一〇月、米国のユニバーサル社との技術提携によって、エラストマー成形法による独自の高速成形機を開発した。これは、円筒形にしたステンレスの母材を成形に要する分だけ自動的に送り込み、これに圧力をかけてオメガ形のひだを作る装置であり、従来のU字形成形法にみられる加工硬化がほとんどなくなっただけでなく、成形スピードも、従来方法の毎時七~一〇m程度に対し毎時六五~七五mと七倍程度の高速となり、チューブの肉厚も〇・四mmから一mmまで自由に選べるという特徴を有するものである。

原告は、右高速成形機によって、我が国では初めてひだの形状がU字形ではなくオメガ形のステンレス鋼製フレキシブルチューブを実用化し(米国では当時、前記ユニバーサル社のほか、アナコンダ社、フレクリニクス社が採用していた。)、これに先に完成したブレデッド・ブレード(ワイヤをテープ状に編んだブレード)や線ブレードで巻いたチューブを作り出した。

右のひだのオメガ形状は、U字形のものとは異なり、均一な円弧の連続であり、円が内圧に対しても外圧に対しても強いことから選択されたものである。このオメガ形状のひだは、前記高速成形機の使用により肉厚を薄くすることができるので、ピッチが小さく、山高が低いものにすることができ、そのため、チューブの外径及び曲率半径も小さくてすみ、U字形フレキシブルチューブに比して柔軟性、振動吸収性の点で優れている。また、ひだ形状の高速かつ連続自動成形が可能となったこと、肉厚を薄くして材料を節約できることから、従来製品に比べ、コストが低くてすむというメリットもある。

また、右のブレードについては、原告は、葛生鉄工所と共同で、ワイヤーで編んだブレードを格子状にからみ編みする我が国初のブレデッドマシーンを実用化した。これにより、ブレードの編組の機械化が可能となり、またフレキシブルチューブの柔軟性を損なわないブレデッドブレードが完成した。

これらの技術開発により、原告は二〇~三〇パーセントのコストダウンを実現した。

右新製品の開発は、昭和五一年一月一三日付日刊工業新聞、同月三〇日付日刊建設工業新聞、同年五月一日発行の雑誌「発明」等で紹介された。

原告は、従来は鉄鋼・化学プラントの分野を主な市場としていたが、ひだの形状をオメガ形とするステンレス鋼製フレキシブルチューブの製品化により、建築・空調・船舶・油送分野での需要の開拓に努めることとなった。

(3) 原告は、この頃から、その製造販売する製品のうち、ひだの形状がオメガ形状のフレキシブルチューブ、伸縮管継手、すなわち原告製品について、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示を使用している。

(4) しかし、原告の開発した前記高速成形機では、金型の一部に金属を使用していたところ、できた製品のひだの山が大きく谷が小さくなり、山と谷が均一にならないことがあるという問題があった。また、その外径は、従来製品に比べれば小さいものではあったが、それでもフランジの端管を溶接で取り付ける必要があったため、火を使用することが危険なタンカー等には採用することができなかった。

そこで、原告は、昭和五一年、金型をすべて合成樹脂製に代え、更に高精度で(山と谷の誤差がほとんどなくなる。)連続成形できる改良技術を開発し、また、フランジを溶接なしで取り付けるNW式を考案した。これらの新技術により、振動吸収性が更に向上し、前記問題も解決して、工業用ベローやタンカーに使用することが可能となり、また、溶接部がなくなることにより接液部がすべてステンレスとなったので、飲料水用チューブにも使用することが可能となった。

原告は、右技術改良による原告製品を大阪商船三井船舶に試験的に納入し、テストの結果、昭和五二年二月頃、同社所有の貨物船を除く専用船、コンテナ船、タンカー、兼用船等三三隻にエンジン冷却などのための海水の曲がり管として採用されることになった。右事実は、昭和五二年二月二三日付日刊工業新聞で報道された。このほか、原告製品は、ビル空調用の分野でも需要を拡大した。

右新技術については、昭和五一年八月二三日付日刊工業新聞、同年九月八日付日刊建設工業新聞でも報道された。

(5) 原告の開発にかかるひだの形状をオメガ形とするステンレス鋼製フレキシブルチューブ(原告製品)は、昭和五二年二月一四日、財団法人日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催による第二回発明功労賞(中小企業の技術開発を奨励するために設けられた賞)を受賞している。

原告製品は、昭和五四年以降は一か月で一億五〇〇〇万円以上の売上げを上げるようになった。

(被告は、原告製品のひだの形状はS字形状であり、技術書籍にもそのように記載されていると主張するが、右技術書籍は証拠として提出されておらず、原告製品の写真である検甲第一号証によれば、原告製品のひだは、山の部分と谷の部分とを一単位として見れば、被告主張のようにS字形状といえなくもないが、山の部分と谷の部分とを別々に一単位として見れば、オメガ〔Ω〕の円弧の部分〔山〕とこれの上下を逆にしたもの〔谷〕とが交互に連続しているということができ、オメガ形状と称することが不適切ということはない。

被告は、オメガ型フレキシブルチューブは、S字形状のフレキシブルチューブと同様に、原告が開発したと主張する昭和五〇年より一〇年以上前から欧米において開発されていたものである旨主張するが、確かに、ひだの形状がオメガ形のフレキシブルチューブ〔被告主張のS字形状のフレキシブルチューブ〕は原告が実用化した当時米国においては既に数社によって採用されていたことは前記(2)認定のとおりであるものの、我が国においてこれを実用化したのは原告が初めてであることは明らかである。被告は、オメガ型フレキシブルチューブは株式会社東京螺旋管製作所の片山某が考案したもので、実用新案出願公告がなされたが、全国ラセン管工業協会から異議の申立てがあり、昭和三五年頃には誰でも自由に使用することが可能になっていた旨主張するが、《証拠省略》によれば、原告の開発したオメガ型フレキシブルチューブはひだの形状が均一の円弧の連続であるのに対し、片山某の考案にかかるものは、液圧成形法によるもので、ひだの外側の山の部分は円弧状であるが、谷の部分及びひだの内側は平面というものであって、技術的に異なるものであることが認められる。但し、《証拠省略》によれば、昭和三九年当時、右片山式のフレキシブルチューブが「オメガ形」の呼称で販売されたことがあることが認められる。

また、被告は、原告がオメガ型フレキシブルチューブと称するS字形状のフレキシブルチューブは、柔軟性、振動吸収性には優れるが、伸縮の吸収についてはU字形のフレキシブルチューブに比べて形態上からも不利であり、小型化できるという点ではエラストマー成形法も液圧成形法も同じであり、薄板という点ではロール成形法が最も薄く絞ることができると主張するが、これを裏付ける的確な証拠はない。

被告は、フランジを溶接なしで取り付けるNW式は、昭和四五年以前から西ドイツ〔当時〕のヴィッツマン社〔設立一八八九年、年商七億ドル。売上高、技術力において世界一のフレキシブルチューブメーカー〕により製造販売されており、昭和四八年当時、訴外会社の営業部員が永大産業〔相馬〕の機械に取り付けられていた交換品〔ヴィッツマン社の商標「HYDRA」のラベル表示があるもの〕を原告の製造部に渡したという事実がある旨主張するが、これを裏付ける的確な証拠はない。)

(四) 原告のその他の技術開発

原告は、前記(一)ないし(三)記載の他にも、次のような技術開発を行っている。

(1) 三隅田は、昭和四八年、メタルタッチ式フレキシブルチューブを開発し、同技術について原告が同年七月七日実用新案登録出願をし、昭和五四年二月出願公告がされ、実用新案登録がされた(登録番号第一三〇一〇二号)。実用新案公報によれば、右考案は、高温ガス、蒸気、水、油などの配管に使われるたわみ管の継手に関する考案であって、その実用新案登録請求の範囲は、「ブレード6を被覆したたわみ管1の端部に所定長さの平行管部3を設け、この平行管部3の外周基端寄りに溝付リング4を嵌装し、その外周面にこのリング溝に嵌入し得る固定リング5を配置し、上記溝付リング4と固定リング5との間に上記ブレード6の端部を介挿挟着してブレード6を固定し、かつ平行管部3の外周先端寄りにはフクロナット7を遊嵌すると共に上記平行管部3の先端縁を拡管して形成したフレア9により上記フクロナット7を平行管部上で位置決め保持させ得るように構成し、該フレア9を上記フクロナット7による被接続管との接続時に両者間において挟圧せしめるようにしたことを特徴とするたわみ管継手」というものであり、従来、たわみ管と継手部材との接続、ブレードの固定は、通常溶接によっていたところ、二回の溶接がされることによりたわみ管が熱で脆くなるという欠点があったが、右の構成を採ることにより、従来のような溶接部は全くなく、たわみ管端部の脆弱化を容易に防止することができる、とされている。

(被告は、メタルタッチ式フレキシブルチューブ〔継手〕の開発については、昭和三六年東洋螺旋管工業株式会社の宇久によってブレード止めが考案され、フレアー部分は米国においてANSI規格の改訂版〔一九七三年度版〕にも記載されている〔考案はそれ以前AGAでも認可されている。〕と主張するが、被告代理人弁理士鈴江武彦・坪井淳の昭和六〇年一一月二二日付回答書添付の実公昭三六―二三九五五号実用新案公報〔考案者宇久真佐男、出願人東洋螺旋管工業株式会社〕によっては原告の前記考案の実用新案登録に明白な無効原因があるとはいえないし、ANSI規格の改定版は証拠として提出されていない。)

(2) 昭和五六年二月、スイスのボア社から導入した技術により、薄板を二枚重ね合わせ、山の頂上は三重にした構造で、使用圧力が二倍以上高い苛酷な使用に耐える超高圧金属フレキシブルチューブを開発した。従来のスパイラル形状のチューブは、一般に〇・三mm厚の板一枚を成形して作っていたので、高い内圧が作用すると山の部分が内側から外側に押されて変形し、圧力に耐えられなくなるため、用途も限定されていたことから、右のような構造を採用することによりこうした難点を解消したものである。右製品の開発については、昭和五六年二月一八日付日刊工業新聞で報道された。

(被告は、薄板二枚重ねの構造という点だけについていえば、国内の数社が既に昭和三〇年代に五ないし六枚重ねの製品を製造販売しており、また、シーム溶接式のフレキシブルチューブは、以前は欧米のフレキシブルチューブメーカーによって数多く製造されており、現在は特殊な用途にだけ使用されているので製造数は極端に減ってきているものの、被告も外国から購入している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)

(3) 昭和五八年八月、石油など液体の危険物を貯蔵し又は取り扱うタンクと配管の結合部のホースとして、薄いステンレス鋼板を二枚重ねにしてオメガ形状のひだを形成し、従来のU字形のひだを有するものよりひだの数を増やすとともに、チューブ保護材としてブレデッド・ブレードを採用して、柔軟性と耐圧性に優れたタンク元用フレキシブルホースを開発した。右製品の開発は昭和五八年八月四日付日刊工業新聞で報道された。

(被告は、ブレデッドブレードは、昭和四五年以前から欧米のフレキシブルチューブメーカー数社により製造販売されている旨主張するが、これを裏付ける的確な証拠はない。)

(4) 昭和六〇年七月、螺旋状に連続したチューブの山を従来より狭く、均一かつ高速に成形する「エア成形縮み方式」により柔軟性を二倍に、繰返し寿命を五ないし一七倍と大幅に高めた新タイプのスパイラルチューブ(エクセレントチューブ)を開発した。これについては昭和六〇年七月二五日付日刊工業新聞で報道された。

(被告は、原告主張の新タイプのスパイラルチューブは従来の形状に比べ波付け〔コルゲーション〕部分を低くしているところ、これでは製品が硬くなるので、波付け部分の間隔を小さくして補っているのであるが、このように波付けの形状を変更することは昔からすべてのメーカーが行っていることである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)

(5) 平成元年九月、口径二五mm以下の細物チューブについて、独自の成形技術により、従来主流であったスパイラルタイプ(螺旋状の連続した山の形状)に比べピッチを細かく、山高を低くして、ねじれに強く柔軟性のある一つ山タイプ(原告はこれを「エクセレント形状」と称した。)の細物フレキシブルチューブ(ベローフレキ)の実用化に成功した。これについては平成元年九月二一日付日刊工業新聞で報道された。

(被告は、右細物フレキシブルチューブが被告において「単山(同心円)フレキシブルチューブ」と称している製品を指すのであれば、被告は既に昭和五八年からこれを製造販売している旨主張するが、右細物フレキシブルチューブが、被告において「単山(同心円)フレキシブルチューブ」と称している製品に相当するものであることを認めるに足りる証拠はない。)

(五) 原告の売上高等

原告は、平成五年現在、年間売上高が約六五億円であって、国内シェアは約一五パーセントであり、従業員一二〇名、九支店一営業所を有し、子会社を国内三社、海外二社有している。原告製品の売上高は全売上高の六〇パーセント以上を占めている。

(六) 原告型式番号

原告は、本件和解契約により訴外会社との関係を絶つ前から原告型式番号を使用しているところ、原告型式番号のうち「TF」は、原告の旧商号中の「東京」の部分と「フレックス」の部分の各頭文字を並べたものであるが、商号が原告商号に変更された後は「トーフレ」の略として認識されており、数字は、任意に決めたものであって特別の意味はない。原告は、同種の製品については同じ型式番号を使用し続けており、需要者は原告の製品を注文する際には、右型式番号によりこれを特定している。もっとも、具体的な製品を特定するためには、更に口径等を特定することが必要であるが、製品の基本的なタイプについては原告型式番号によって特定することが可能である。

訴外会社は、昭和四九年七月に本件和解契約により原告との関係を絶ってからは「TF」を冠した型式番号は使用しておらず、原告の同業者で「TF」を冠した型式番号を使用している者は、その後被告型式番号の使用を始めた被告以外には存在しない。

(七) 被告と訴外会社

(1) 前島は、昭和四二年頃原告に入社し、その後訴外会社に出向したが、前記第二の一3記載のとおり昭和四九年五月に訴外会社の経営権を巡る紛争が生じた後原告に復帰し、同年七月一二日に原告、三隅田及び株式会社ステンレスパイプ製作所と訴外会社及び伊藤守雄らとの間で本件和解契約が成立した直後に原告が開設した原告東京支店の支店長に就任した。

(2) ところが、前島は、昭和五二年五月、原告東京支店の営業部員の全員(五名)を連れて原告を退職した。

その目的は、原告東京支店の営業部員を率いて商事会社を設立し、訴外会社から商品を仕入れて原告の従来の得意先に販売することにあった。

前島は、訴外会社において肩書上営業部長の職に就き(但し、給料等の支払は受けていない。)、訴外会社の従業員の給料を立替払いし(六〇〇万円)、訴外会社の役員とともに手形に裏書をする等経営にも関与した。

(被告代表者は、その尋問において、原告が対立関係にあるはずの訴外会社に商品を横流ししていたことが原告を退社する決意のきっかけである旨供述するが、右商品横流しの事実を認めるに足りる証拠はない。)

(3) 訴外会社は、昭和五二年五月二五日に第一回の不渡りを、同年六月一〇日に第二回の不渡りを出し、同月一三日に取引停止処分を受けた。

訴外会社に対する大口の債権者である東京アイチ株式会社は、第一回の不渡りのときから訴外会社に押し掛け、訴外会社の有する売掛金債権の譲渡を受けるなどした。

(4) 被告は、同年八月二五日、資本金一〇〇〇万円のうち五〇〇万円を東京アイチ株式会社が出資して設立された会社であり、代表取締役には訴外会社の経理担当取締役であった武村一隆が就任し、前島もいくらか出資して取締役に就任した。その従業員は、元訴外会社の労働組合員であったものである。被告は、自社は少しでも収入を上げて訴外会社の債権者に弁済をする趣旨で設立されたものである旨訴外会社の債権者に説明していた。

被告は、同年一〇月頃から、訴外会社の千葉県船橋市及び同県山王町の工場において、訴外会社の機械設備及び材料を使用して製品を製造し、これを売却し、また、訴外会社の有する売掛金債権を回収した。

(5) 訴外会社のいわゆる債権者委員会(東京アイチ株式会社を含む。)は、同年一〇月二七日、訴外会社の側で任意整理を申し出てきたが誠意が見られず、弁済を申し出た被告による弁済も期待薄であるなどとして、株式会社村上商店により申し立てられていた破産手続を維持すべきであるとの結論に達した。

訴外会社は、同年一一月二日東京地方裁判所に自己破産の申立てをし、同月一五日の訴外会社代表者の審問手続を経て、同月二一日破産宣告を受け、平田英夫弁護士が破産管財人に選任された。

(6) 前島は、同月四日に被告の代表取締役に就任した。

(7) 訴外会社の破産管財人の東京地方裁判所に対する昭和五三年一月一九日付報告書には、「破産財団についての問題点」と題する項に、「破産直前期(昭和五二年三月)、税申告がなされていない。(その直後の五月の不渡で、帳簿の記載がずさんである。)」、「取引停止処分後破産宣告までの間の期間が長かったため不明瞭な点が多い。」、「昭和五二年八月二五日従業員が中心となって東京フレックス工業株式会社が設立され今日に至っている。」、「右新会社及び破産会社が倒産後回収した金員の明細の調査を要する。」、「新会社が使用した破産会社の材料、完成品の明細の調査を要する。」との記載がある。

同じく破産管財人の昭和五八年二月一五日付報告書には、「本件に於て、破産財団の中で一番大きな位置を占めるのは東京フレックス工業株式会社である。右会社は、破産会社の労働組合員の一部によって本件倒産直後に設立され営業を続けてきた会社である。設立後、破産宣告まで破産会社の在庫を使用して生産販売をなしていたため、この損害賠償その復原が困難を極めた。(消費した材料の資料は虚偽に満ちていたりして)その結果財団としては一番有利な前年度の在庫を基準にして計算する方法(損害賠償的要素も含め)に合意させ金額に換算して七三〇〇万円を分割支払わせることに決めた。最後の一八〇〇万円について組合員の労働債権一八〇〇万円と事実上相殺を希望していた。分割払について若干の金員を残して支払われてきており、右一八〇〇万円についても目下支払の目途につき検討をして貰っている。」との記載がある。

同じく破産管財人の昭和六〇年九月一八日付報告書には、「一、破産会社の商品売却について (1)破産会社の在庫品を使用して東京フレックス工業株式会社(破産会社の労働組合員等で倒産後設立された会社)が商品を作り、既にあった商品と共に破産宣告時、時点販売がなされていた。 (2)その材料の使用金額、売却商品の確定は、混乱会社のため特定は非常に困難であり、破産会社と、右会社と金額に相当な開きが出た。それぞれ数字を数回出させた上で、右会社には不満であった様だが損害賠償的意味も含めて許可申請の数字の確定を見た(直前期の棚卸を基準)。金額七千三百万円、月額百七十五万円分割を原則。その交渉の経過は、裁判所にその都度報告し、御指導の上進行し、右取極の合意成立は昭和五三年一二月一八日であった。 (3)その間支払について時々遅れはあったが、十分な監視をとって進行し、右会社に弁護士が入っていたので金額の回収が出来た。」との記載がある。

同じく破産管財人の昭和六〇年一〇月一八日付許可願には、「破産会社所有の機械、設備、在庫商品一式を七千三百万円で売却致したく思いますので御許可賜りたく上申就します。理由 一、破産会社の在庫品を使用して東京フレックス工業株式会社(破産会社の労働組合員等で倒産後設立された会社)が商品を作り、既にあった商品と共に破産宣告時、時点販売がなされていた。二、その材料の使用金額、売却商品の確定は、混乱会社の為特定は非常に困難であり、破産会社と右会社と金額に相当な開きが出た。それぞれ数字を何度も提出させた上で管財人は、棚卸を基準に右金額を査定した。三、他に同業者に照会せるも金額的には半分に足りない状況である。」との記載がある。

(8) 被告は、訴外会社の破産管財人との間で昭和五三年一二月一八日にした合意のもとに、訴外会社所有の機械、設備、在庫商品一式を代金七三〇〇万円で買い取ることになったが、右代金七三〇〇万円は、右(7)の破産管財人の報告書に記載されたとおり、被告が訴外会社の機械、設備、在庫商品等を事実上使用したことによる損害賠償の意味を含むものであった。

しかし、右代金の支払は相当に遅延した。これは、東京アイチ株式会社が被告設立時の株式の半数を有していただけでなく、訴外会社の千葉県船橋市及び同県山王町の工場を占拠していたことから、右占有を解かせ被告の事業を円滑に進めるために、被告がこれら工場の材料等を使って製造した製品を売却した代金を、東京アイチ株式会社の訴外会社に対する債権約六〇〇〇万円の支払に充て(なお、その債権について、前島が個人保証をするため自宅の土地建物に抵当権〔被担保債権額五〇〇〇万円〕を設定していた。また、この支払について破産管財人の承認は得ていない。)、右東京アイチ株式会社に対する支払を破産管財人に支払うべき機械等の代金七三〇〇万円(破産債権者に対する配当に充てられる。)の支払よりも優先させたことによる。

2  右1認定の事実に基づき、原告商号の周知性、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の周知性、原告型式番号の商品表示性、周知性につき、順次判断する。

(一) 原告商号の周知性

(1) 右1の(一)ないし(五)認定の事実によれば、三隅田は、昭和三七年頃、当時不可能とされていたステンレス鋼製のフレキシブルチューブを完成し、その製造販売のため個人事業の「東京フレックス製作所」を前身として原告を設立したこと、原告は、昭和四七年一月、右ステンレス鋼製フレキシブルチューブにつき、我が国メーカーとして初めて、ドーモント社を通じて(同社の名義で)AGAの規格合格の認定を受け、昭和五〇年六月には、AGAから直接(原告自身の名義で)規格合格の認定を受けたこと、そして、原告は、昭和四二年当時既に業界五位の地位にあり、昭和四八年には売上高三六億円で、ステンレス鋼製フレキシブルチューブのトップメーカーとなっており、特に、昭和五〇年一〇月、米国のユニバーサル社との技術提携によってエラストマー成形法による高速成形機の開発に成功し、これによりひだの形状がオメガ形のステンレス鋼製フレキシブルチューブを我が国で初めて実用化し、その製造を開始した後は、販売分野を更に拡大したこと、昭和五二年二月、原告はひだの形状がオメガ形のステンレス鋼製フレキシブルチューブ(原告製品)につき財団法人日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催による第二回発明功労賞を受賞したこと、原告は、その他にも各種の技術開発をし、以上の新技術の開発等について、その都度、日刊工業新聞、日経産業新聞、日刊建設工業新聞等で報道されたことなどにより、原告商号は、遅くとも被告が設立された昭和五二年八月までには、全国にわたって取引者、需要者の間に広く認識されるに至っていたものというべきである。

その後も、原告は、昭和五六年二月、スイスのボア社からの技術導入による薄板を二枚重ね合わせた構造の超高圧金属フレキシブルチューブの開発、昭和五八年八月、柔軟性と耐圧性に優れたタンク元用フレキシブルホースの開発、昭和六〇年七月、「エア成形縮み方式」により柔軟性、繰返し寿命を大幅に高めた新タイプのスパイラルチューブ(エクセレントチューブ)の開発、平成元年九月、一つ山タイプの口径二五mm以下の細物フレキシブルチューブの実用化というように新技術の開発に成功し、これらの新技術開発の事実もその都度日刊工業新聞で報道され、また、平成五年現在、年間売上高が約六五億円であって、国内シェアは約一五パーセントであり、従業員一二〇名、九支店一営業所を有し、子会社を国内三社、海外二社有しているというのであって、これらの事実によれば、原告商号は、現在に至るまで変わらず、全国にわたって取引者、需要者の間に広く認識されているものというべきである。

なお、原告の旧商号と同一の「株式会社東京フレックス製作所」の商号により昭和四二年五月に設定された訴外会社は、「株式会社東京フレックス製作所大阪事業本部」と称する原告に対し、「同東京事業部」と称して、対外的には原告と一体の会社として営業を行ってきたものであり(前記第二の一2)、そして、昭和四九年七月の本件和解契約により原告との関係を絶った後は、AGA認定の設備、製品を使用することができず、独自の信用を築くことができないままに約三年で倒産、消滅したため、原告が昭和四九年八月に商号を原告商号に変更した後も、「株式会社東京フレックス製作所」といえば原告の旧商号として原告を指すものと(換言すれば、原告は「株式会社東京フレックス製作所」が商号を変更した会社であると)取引者、需要者によって認識されているものということができる。

(2) 被告は、原告の技術開発に関する前記新聞等による報道について、業界新聞がある会社の発表について何ら裏付けをとらずにそのまま記事にすることはままあることであり、会社の側で営業戦略として業界新聞を利用することも稀ではなく、原告や被告の主な取引者、需要者である官公庁、大手企業は、新聞報道を安易に信じやすい一般消費者と異なり、螺旋管業界の実情、業界各社の技術力等の能力、商品の品質その他についてかなりの情報収集能力と厳しい判断能力を備えており、新聞報道、特に業界新聞の報道が真実だけを伝えるものでないことはその常識になっている旨主張し、右原告の技術開発に関する新聞報道等は原告商号の周知性取得の根拠とはなりえないかのように主張するが、前記新聞報道等の内容が事実に反すると認めるに足りる証拠は存しないから、採用することができない。

(二) 「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示の周知性

(1) 前記1の(一)、(三)及び(五)認定の事実によれば、原告は、その製造販売する製品のうち、原告製品、すなわちひだの形状がオメガ形(均一な円弧の連続)のフレキシブルチューブ、伸縮管継手について、その開発当初の昭和五〇年一〇月頃から「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示を使用しており、そして、この技術開発は日刊工業新聞等によって広く報道され、第二回発明功労賞を受賞しており、また、原告製品は昭和五四年以降は一か月で一億五〇〇〇万円以上の売上げがあり、現在もその売上高はステンレス鋼製フレキシブルチューブのトップメーカーである原告の全売上高(約六五億円)の六〇パーセント以上を占めている、というのである。

(2) しかしながら、一方、昭和三九年当時、片山式のフレキシブルチューブが「オメガ形」の呼称で販売されたことがあることは前記1(三)末尾の括弧内認定のとおりである。

また、《証拠省略》によれば、昭和六〇年版の「建設大臣官房官庁営繕部監修機械設備工事共通仕様書」(社団法人営繕協会発行)には、「防振継手」の「ベローズ形」の欄に、「鋼製フランジ付きで、ベローズはJISG4305(冷間圧延ステンレス鋼板)によるSUS304又はSUS304Lとしオメガ形状のものとする。」との記載があり、昭和六二年四月発行の「大阪市都市整備局監修機械設備工事標準仕様書」(財団法人大阪市建築技術協会発行)には、「防震継手」の「ステンレス鋼製」の欄に、「鋼製フランジ付きで、ベローズはSUS304Lとしてオメガ形状のものとする。」との記載があること、これは原告の働きかけによるものであり、これらの官公庁において、特定の業者の製品を仕様書に記載すると不都合があるとしたのに対し、原告側において、「オメガ形状」は一つ山タイプのフレキシブルチューブ(一般には「アニュラー」と呼ばれていた。)の通称である旨述べたため、右のような記載がされるに至ったものであることが認められる。

そうすると、特に昭和六〇年以降は「オメガ形状」という表示は原告製品以外の製品をも一般的に指称するに至っているものであり、「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示が原告という特定の主体の商品であることを表示する状況にはないといわなければならない。原告代表者は、右各仕様書に「オメガ形状」と記載されることにより原告製品を官庁に独占的に供給することができる旨述べるが、採用の限りでない。

(3) そして、被告が「オメガチューブ」の表示の使用を開始したのは前記第一の二2のとおり昭和六〇年頃であるから、原告の被告に対する「オメガチューブ」の表示の使用停止の請求、「オメガチューブ」の表示の使用により原告が被った損害の賠償請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないといわざるをえない。

(三) 原告型式番号の商品表示性、周知性

前記1(六)及び第二の二1認定の事実によれば、原告は、昭和四九年七月の本件和解契約により訴外会社との関係を絶つ前から、その製造販売するフレキシブルチューブに、形状、用途、接続金具等の別に応じて、「TF一〇〇〇」というように「TF」の下に四桁の任意に選択した数字を付したものを型式番号として使用しており、そのうち「TF」は、原告の旧商号中の「東京」の部分と「フレックス」の部分の各頭文字を並べたものであるが、商号が原告商号に変更された後は「トーフレ」の略として認識されており、需要者が原告の製品を注文する際には、右型式番号によりその基本的なタイプを特定することが可能であり、一方、訴外会社は、原告との関係を絶ってからは、「TF」を冠した型式番号は使用しておらず、原告の同業者で「TF」を冠した型式番号を使用している者は、その後被告型式番号の使用を始めた被告以外には存在しない、というのである。

そして、「TF」が原告の旧商号「株式会社東京フレックス製作所」及びこれを引き継ぐ原告商号「トーフレ株式会社」(「東京フレックス」の略称)の略であることは、取引者、需要者にとって容易に理解できると考えられるところ、原告商号が昭和五二年八月までに全国的に周知性を取得したことは前記(一)認定のとおりであるから、原告型式番号は、原告商号が周知性を取得した昭和五二年八月には、単なる型式番号であるにとどまらず、原告の商品であることを示す商品表示としての機能を取得し、かつ周知性を取得しているものというべきである。これに反する被告の主張は失当というほかない。

二  争点2((一)被告商号は原告商号に類似し、その使用は原告の営業との混同を生じさせ、これによって原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか。(二)被告の「オメガチューブ」の表示及び被告型式番号は、それぞれ「オメガ型」「オメガベローズ」「オメガチューブ」の表示及び原告型式番号に類似し、その使用は原告の商品との混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるか)について

ある営業表示又は商品表示が不正競争防止法二条一項一号にいう他人の周知営業表示又は周知商品表示と類似し、混同を生じるかどうかは、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあり、混同のおそれがあるか否かを基準として判断すべきである(なお、被告の「オメガチューブ」の表示については、前記一2(二)説示のとおり、これに関する請求は争点1についての判断により既に理由がないといわざるをえないから、争点2の関係では判断の必要がない。)。

1  被告商号と原告商号

(一) 被告商号「株式会社東京フレックス」と原告商号「トーフレ株式会社」とを対比するに、その外観、称呼は異なるというべきであるが、観念についてみると、原告及び被告の取引者、需要者は、フレキシブルチューブを取引し購入する者であり、前記一2(一)説示のとおり、原告が昭和四九年八月に商号を原告商号に変更した後も、「株式会社東京フレックス製作所」といえば原告の旧商号として原告を指すものと取引者、需要者によって認識されていること、特に、取引においては正式な商号ではなく略称で取引相手を指称することがままあることからすると、被告商号中の「東京フレックス」は原告商号中の「トーフレ」の正式名称である(逆にいえば、原告商号中の「トーフレ」は被告商号中の「東京フレックス」の略称である)と認識され、両者は類似のものとして受け取られるおそれがあるということができる。

(二) そして、右被告商号と原告商号との類似性に加え、被告と原告の営業内容が一致していること、特に被告がもともと「株式会社東京フレックス製作所東京事業部」と称して原告と一体の会社として営業を行ってきた訴外会社の倒産の過程において設立されたことからすると、取引者、需要者をして、被告は原告と同一の営業主体であるか、原告との間に営業上何らかの緊密な関係がある(いわゆる広義の混同)ものと誤信させるおそれがあるというべきである。

もっとも、原告は、本件和解契約直後に旧商号から原告商号に変更した際、取引先に対し今後原告と訴外会社とは関係がない旨通知していることは前記第二の一3認定のとおりであるが、一片の通知により趣旨が徹底するとは考え難く、右(一)記載の取引の実情からして混同のおそれは認められるというべきであり、現に混同が生じていることは後記五2認定のとおりである。被告は、右商号変更の理由につき、原告は訴外会社との誤認混同を避け別会社であることを対外的に明らかにするためであると主張するのであるから、訴外会社「株式会社東京フレックス製作所」と原告との間では誤認混同は生じないと判断する原告の主観では、訴外会社の商号とは「製作所」という文字がない点だけで異なる被告と原告との間でも誤認混同は生じないと判断するのが素直であり、誤認混同のおそれがあるとする原告の主張が正しいとすれば、昭和四九年の原告商号への商号変更自体が訴外会社との誤認混同を生じさせるためになした行為ということになり、原告の主張自体に矛盾があると主張する。なるほど、原告の商号変更は、誤認混同を避けるためという目的からすれば結果的には不徹底であったといわざるをえないが、もともと原告と訴外会社は「株式会社東京フレックス製作所」という同一の商号であって、本件和解契約でも特に商号を変更することを合意したわけではないのに、原告が一方的に変更したものであるから、その変更に当たって旧商号との連続性を重視して旧商号中の要部である「東京フレックス」の略称である「トーフレ」をもって原告商号の要部としたことは十分理解できるところであり、原告が訴外会社に対して訴外会社の商号が原告商号と類似していると非難する場合に訴外会社が反論するのであればともかく、後記のとおり訴外会社を正式に承継したものではない被告が、原告による右商号変更の不徹底さを採り上げて非難するのは筋違いといわなければならない。

このように混同が生じる以上、特段の事情が認められない本件においては、原告の営業上の利益が侵害されるおそれも存在するというべきである。

2  被告型式番号と原告型式番号

(一) 前記第二の二認定の事実によれば、被告型式番号のうち「TF一〇〇〇」、「TF三〇〇〇」は原告型式番号の「TF一〇〇〇」、「TF三〇〇〇」とそれぞれと同一である。また、被告型式番号のうち「TF一六〇〇M」又は「TF一六〇〇F」、「TF五〇〇〇M」又は「TF五〇〇〇F」、「TF七〇〇〇M」又は「TF七〇〇〇F」は、末尾のF又はMを除いて原告型式番号の「TF一六〇〇」、「TF五〇〇〇」、「TF七〇〇〇」とそれぞれ同一であり、右M又はFが取引者、需要者の注意を惹くものとは認められないから、結局これらの被告型式番号も対応する原告型式番号と類似するものであることが明らかである。

(二) 同一又は類似のものである被告型式番号と原告型式番号がそれぞれ使用されている製品も、型式番号「TF三〇〇〇」を除いて一致するものである。右型式番号「TF三〇〇〇」については、原告において使用されている製品はJIS一〇Kフランジ付フレキシブルチューブであるのに対し、被告において使用されている製品は各種フランジ(五種類以上)付フレキシブルチューブであるという違いはあるが、両型式番号の使用されている製品が厳密に同じものでないとしても、同種のものであることは明らかである。

なお、被告代表者は、その尋問において、被告型式番号のうち「TF一六〇〇」が使用されている製品はカシメタイプ一般(メタルタッチ式及びパッキンシール)であるかのように供述するが、乙第一〇号証(被告代表者の陳述書)の記載に反するのみならず、被告の平成三年版カタログ(甲第二三号証)には、「TF―一六〇〇M(F)メタルタッチ型」として掲載され、その「特長」として「シール面がメタルシールとなります。(パッキン不要)」と記載されているから、採用することができない。

(三) 原告型式番号は、単なる型式番号であるにとどまらず、原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得していることは前記一2(三)説示のとおりであり、そして、右のとおり被告型式番号は原告型式番号と同一又は類似するものであり、使用されている製品も同種のものであるから、被告の製品に被告型式番号を使用することにより原告の製品との混同を生じるおそれがあるというべきである。

被告は、被告型式番号は訴外会社が従来の型式番号を踏襲したのを引き継いだものであり、被告代表者があえて原告型式番号と同一にすると宣言した事実はないし、被告型式番号は原告型式番号を模倣したものでもない旨主張するが、前記一1(七)に認定したところによれば、被告は訴外会社との間で型式番号を引き継ぐような法律行為をしたわけでも、訴外会社の債権債務を包括的に承継したわけでもなく、また前記一1(六)の認定の事実によれば、そもそも、訴外会社は、昭和四九年七月に本件和解契約により原告との関係を絶ってからは「TF」を冠した型式番号は使用していないのであるから、失当というほかはない。

(四) このように被告の製品に被告型式番号を使用することにより原告の製品との混同を生じるおそれがある以上、被告型式番号に接した者がその製品は原告の製品であると誤認して注文する等、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあるというべきである。以上に反する被告の主張は採用することができない。

なお、原告は、被告型式番号が使用されている被告の製品がこれに対応する原告型式番号が使用されている原告の製品より性能等が劣るものである旨主張し、この点も原告の営業上の利益が侵害されるおそれとして主張するようでもあるが、確かに後記五2の(二)及び(三)認定の被告の製品に対するクレーム発生の事実からは、被告の製品が原告の製品より性能等が劣ることが窺えなくもないものの、被告の製品と原告の製品の性能等についての具体的な実験結果等は提出されておらず、結局、一般的にそのように断定できるだけの証拠はない。

3  原告の差止請求の可否

右1及び2並びに前記一に説示したところによれば、被告商号の使用の停止及び抹消登記手続並びに被告型式番号の使用の停止を求める原告の請求は、格別の事由のない限り、理由があるものといわなければならない。

なお、被告商号の使用の停止及び抹消登記手続を求める原告の請求は、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づく請求と商法二〇条一項に基づく請求とが選択的併合の関係にあると解されるから、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づく請求を理由ありとする以上、商法二〇条一項に基づく請求については判断を要しない。また、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づく差止請求については、被告に不正競争の目的のあることが要件ではないから、争点3について判断を要しない。

三  争点5(被告は、被告型式番号についていわゆる先使用権を有するか)について

被告は、被告型式番号について、原告型式番号が原告の商品であることを示す商品表示として周知性を取得した昭和五二年八月より前から訴外会社が使用していた型式番号(被告型式番号を含む。)を引き継いで設立当初より使用しているものであり、原告の信用を利用して不当に利益を得ようとする目的などなく、善意に被告型式番号を使用しているものであるから、これを継続して使用することが許される旨主張するが、右主張が採用できないことは前記二2(三)に説示したところから明らかである。

四  争点6(原告の本件請求は、信義則に反し、権利の濫用に当たるか)について

1  被告商号について

(一) 被告は、仮に新聞報道によって原告商号が周知性を取得したとしても、事実に基づかない報道を繰り返すことによって周知性を得たものであるから、公正な営業行為を保護するため、信義衡平の原則に反する競争を排除しようとする不正競争防止法二条一項一号、三条の趣旨に照らし、原告による被告商号の差止請求自体、信義則に反し、権利の濫用として許されない旨主張するが、前記新聞報道等の内容が事実に反すると認めるに足りる証拠がないことは前示のとおりであり、また、原告が各新聞社に働きかけて右のような報道をさせたと認めるに足りる証拠もないから、右主張は採用できない。

(二) また、被告は、原告は、被告が昭和五二年八月二五日から「東京フレックス工業株式会社」の商号で営業活動を営んでいることを昭和五二年から知っていたものであり、被告は平成三年四月二日に商号を現在の被告商号「株式会社東京フレックス」に変更したものの、主要部分において共通する商号を昭和五二年から使用していたのに、それを原告が現在に至って突然問題にすることは信義則に反する旨主張する。これに対し、原告は、被告は訴外会社の債権債務を引き継いで設立された会社であると理解していたので本件訴えの提起が遅れた旨主張する。

原告が本件訴えを提起したのは平成五年二月一六日であるところ、《証拠省略》によれば、右のように原告による本件訴えの提起が遅れたのは、原告が調査を依頼した株式会社帝国データバンクの昭和六三年五月二三日付調査報告書に、被告現代表取締役の前島は、「倒産した東京フレックス製作所(株)の債権、債務を清算し当社(を)設立」した旨記載され、平成二年九月株式会社時評社発行の「急成長企業の秘密」という書籍に、被告設立の経緯について、「一三年前の昭和五十二年、同名の会社が従業員九〇人を抱えて倒産した。管財人は倒産会社の買い手を捜したが、同業者の間では二〇〇〇万円しか値がつかなかった。…同業者が尻込みするなか、意外なところから買い手が名乗り出た。同社の兄弟会社につとめる営業マンで、当時三七歳の前島さんである。…管財人と債権者には毎月の収支をキチッと報告し、売り掛け先や仕入れ先のリストを提出した。」との記載があること、現に、被告自身、自社は少しでも収入を上げて訴外会社の債権者に弁済をする趣旨で設立されたものである旨訴外会社の債権者に説明していたし(但し、現実には、大口債権者である東京アイチ株式会社に対する支払を、訴外会社の破産管財人に支払うべき機械等の代金七三〇〇万円〔破産債権者に対する配当に充てられる。〕の支払よりも優先させたことは、前記一1(七)(8)記載のとおりである。)、被告は訴外会社を引き継いだ会社であることを標榜していたこと(被告は、経歴書に「創業昭和三九年三月一二日」と記載し、訴外会社との関連をほのめかしている。)等の事情から、原告において、被告は訴外会社の債権債務を承継した会社であるため、訴外会社等との間の本件和解契約において訴外会社の商号や型式番号の使用の禁止を約していなかった以上、被告に対しては商号、型式番号の類似を理由に訴えを提起することはできないのではないかと考えていたことによるものと認められるから、本件訴えの提起をもって信義則に反するものであるとはいえない。

被告は、被告は機械設備、製品、材料等の売買の交渉、債権届出その他の破産手続への関与は、旧商号「東京フレックス工業株式会社」を用いて行っており、これについて訴外会社の破産管財人、原告を含む破産手続への関与者、その他の第三者から異議を唱えられたことは一切ないのであり、右商号の使用は原告との間においても当然に許容されていたものであると主張するが、原告が破産手続に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。被告は、引抜きその他人事交流の激しいこの業界では、他社の内部事情は筒抜けの状態にあり、原告は当然に被告と訴外会社との関係は知っていたはずであるとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

2  被告型式番号について

被告は、被告は昭和五二年八月二五日の設立当初より、訴外会社から引き継いだ型式番号(被告型式番号を含む。)を使用して営業活動を行っており、原告はその主張によっても、被告による右型式番号使用の事実を昭和五六年には知っていたというのであり、被告が昭和五二年から継続的に行ってきた行為を原告が現在になって突然問題にするのは信義則に反する旨主張するが、原告による本件訴えの提起が遅れた事情は前記1(二)認定のとおりであるから、採用することができない。

五  争点7(被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)について

1  前記認定事実によれば、被告商号の使用及び被告型式番号の使用による不正競争行為につき、少なくとも被告に過失のあることが明らかであるから、被告は、不正競争防止法四条に基づき、原告が右不正競争行為により被った損害を賠償する責任があるというべきところ、その損害額につき、原告は、第一次的に、被告は現在年間売上高が三八億円であるところ、低く見積もってもその一パーセントに相当する純利益は右不正競争行為によって取得したものであるから、原告は同額の損害を被ったと主張するが、被告の年間売上高の一パーセントは右不正競争行為によって取得したものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

そこで、以下、原告主張の損害の具体例(第二次的主張)について検討する。

2  被告商号の使用による損害の具体例

(一) 本件漏水事故に起因する損害

(1) 本件漏水事故発生の事実、すなわち、被告は、大成建設株式会社が請け負ったディスカウントスーパーの建築工事において、SPフレキを納入したが、平成四年九月一九日、二六日、三〇日、一〇月六日にスプリンクラーヘッドの取付け側(レデューサー側)で発生した腐食(隙間腐食)が原因の漏水事故が発生したことは当事者間に争いがなく、これが被告の納入にかかるSPフレキを原因とするものであるか(原告の主張)、金具、すなわち住友金属工業株式会社製のステンレス鋼管に不具合があったことによるものであるか(被告の主張)について争いがある。

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

① 本件漏水事故の工事現場については、元請が大成建設株式会社、直受が株式会社ミヤタエンジニアリング及び宮田工業株式会社、その下請が大和設備工事株式会社、その下請が宮田設備工業株式会社であった。

② 平成四年一〇月六日、宮田工業株式会社の担当者と被告の担当者が問題のディスカウントスーパー(三和麻溝店)において、全スプリンクラーヘッドについて漏水の有無を確認するための作業を行ったところ、二階の東側アラーム系統配管に接続されたSPフレキ管のうち三箇所に漏水を発見した。宮田工業株式会社と被告は、それぞれ現場の漏水したSPフレキと漏水していないSPフレキを持ち帰った。

③ 同月八日、宮田工業株式会社は、日本金属株式会社に対し、「フレキシブル巻出し管漏水クレーム品」(SPフレキ)の腐食原因調査を依頼した。

日本金属株式会社技術研究所主任研究員(工学博士)は、この腐食は隙間腐食であること、溶接をした場合、五〇〇ないし七五〇℃の温度域で粒界にクロム炭化物が析出し近傍にクロム欠乏層ができるので腐食しやすくなること等を述べた。

④ 同月九日、被告の担当者が宮田工業株式会社を訪れて第一回の会合を持ち、席上、漏水がSPフレキのレデューサー側で発見され、レデューサー側に錆の発生があることが確認された。

⑤ 同月一五日、宮田工業株式会社の担当者が神奈川県工業試験所応用化学部部長(工学博士)にステンレスの隙間腐食について相談したところ、同人は、ステンレスにおいては、溶接部に限らず隙間腐食は起こること、隙間腐食を試験する方法は確立されていないこと、材質の選定で隙間腐食が起こる確率を小さくすることはできても絶対に起こらないとはいえないこと等を述べた。

⑥ 同月二一日、宮田工業株式会社の担当者が、住友金属工業株式会社の技術・開発本部ステンレス技術部ステンレス特品技術室参事に対し、腐食サンプルとして塩水噴霧試験をした試料(SUS三〇四L)を提示してステンレス鋼の腐食について尋ねたところ、同参事は、隙間のあるところに塩水噴霧をかけたら腐食は出ると思われること、隙間への異物の付着、隙間そのもの、溶接時の熱影響による粒界へのクロム炭化物の析出によるクロム欠乏層での腐食が考えられること、モリブデンを含有する材質でも、溶接した場合は錆の発生がありうるし、孔食は防止できるが、隙間腐食が防止できるかどうかは疑問であること、溶接後に酸洗いをしない場合は、溶接時にできる酸化被膜そのもので隙間腐食を起こすこと、ステンレスの表面を研磨した場合でも、研磨時にできた髭の部分で隙間腐食が発生する場合があること等を述べた。

⑦ 同月二八日、大成建設株式会社、大和設備工事株式会社、株式会社ミヤタエンジニアリング、宮田工業株式会社の各担当者が、被告の子会社である東日本工機株式会社の工場及び被告千葉工場を査察した。被告千葉工場(一般のフレキシブル管の組立て製造工場)については機密部分が多いという理由で詳細な査察はされなかったが、フレキ巻出し管の組立て製造が行われている東日本工機株式会社に対する査察では、作業者は、溶接後の酸洗い等の処置は一切していないと述べた。

工場査察後の打合せにおいて、大成建設株式会社の担当者は、本件漏水事故の原因究明が今後の対応のポイントになること、溶接部と水(滞留水)と腐食との因果関係の解明が必要であること、大成建設としては現時点で被告のフレキ巻出し管の使用を停止していること、三和(顧客)に対する対応策が問題であること、水の影響があるとすれば、再現実験の必要性もあることを述べた。

⑧ 同月三〇日、大成建設株式会社、大和設備工事株式会社、宮田工業株式会社の各担当者が、「熊本工場の見学と、一〇月一九日に漏水事故を引き起こしたフレキ巻出し管の漏れ確認、並びに当該部分を割っての腐食の確認」を目的として、被告熊本工場を査察した。

被告熊本工場では被告のフレキ巻出し管のチューブ及びブレードを生産しているものであるが、宮田工業株式会社の担当者は、厳しい品質管理体制が敷かれているようには見受けられなかったとの報告をしている。

フレキ巻出し管の漏れ確認試験においては、ニップル側(レデューサー側の反対側)に錆らしいものは認められないこと、チューブを引き伸ばして錆の付着した部分を顕微鏡で観察すると腐食孔が認められること、当該部分の錆をブラシで除去し、再度腐食孔を顕微鏡で観察すると、チューブの先端の山つぶし部の端面溶接部の次の内径側山から外径側への谷部分に多数の腐食孔があり、ほぼ全周にわたって存在しているが、ニップル側には腐食孔がないこと、被告が同月二〇日に三和麻溝店において採取した未漏水のSPフレキを顕微鏡で観察したところ、腐食が発生していたことが確認された。

査察後の打合せでは、被告は、今回の腐食の原因解明のためには当該部分の付着物の分析が必要であるので日本冶金工業株式会社に分析を依頼していると述べた。これに対し、大成建設株式会社及び大和設備工事株式会社は、原因の特定は当然のこととして、現在設置されているものをどのように処置するかがポイントであるとした。被告は、水質検査の結果はPHが強アルカリであるから孔食はおきにくいはずであるが、孔食にしろ隙間腐食にしろ腐食が局部的であるため水質からの判断は難しく、事故原因については総合的判断で結論を出すべきである旨述べた。大成建設株式会社は、今後も漏水事故を繰り返すことは顧客との関係で問題である旨述べ、被告は、日本冶金工業株式会社の検査結果が重要である旨述べた。最終的に、四者は、原因は一つでなく、各要因の相乗効果又は強弱によって腐食が出たと考えられるので、総合的判断を要すること、被告の従来の腐食経験と今回の腐食の相違は、流水と滞留水の違いであるが、それにしても腐食が早すぎると思われるということを確認した。そして、大成建設株式会社は、被告に対し、現場から採取した製品の拡大顕微鏡写真を現場の建築図に貼付して提出すること、現場での水張り、水抜きの日付を調査して報告すること、竣工している他の物件についてもSPフレキを採取して調査すること、同年一一月五日に物理的調査結果を株式会社ミヤタエンジニアリングに報告することを指示した。

⑨ 日本冶金工業株式会社の同年一一月二日付「スプリンクラーメタルホースの水漏れ原因調査結果」には、まず、調査結果として、本件漏水事故の際SPフレキ内に滞留していた水の含有成分は通常の水道水のレベルと思われるが、PHは高い数値を示していること、顕微鏡観察の結果、水漏れのあったSPフレキの腐食形態は孔食であるが、一部範囲の広がった隙間腐食の様相を呈していること(なお、同じ現場の水漏れのなかったSPフレキについても孔食が認められること)、調査結果から水漏れはフレキシブルチューブ端部での孔食及び隙間腐食による孔開きに起因することなどが記載されている。また、考察として、ステンレス鋼製の耐食性は、表面に酸化物保護被膜を形成する不働態に基づいているが、この被膜が破壊されたとき腐食が生じること、腐食がある特定の場所にだけ集中し、食孔を生じ他は不働態を保っているような腐食形態を孔食というが、その機構は、溶存酸素及び金属イオンの還元反応と、ステンレス鋼の酸化皮膜中の酸素と塩素イオンが置換して保護性を失った箇所が溶出する反応によること、腐食が隙間構造物や異物付着物で選択的に進行する形態を隙間腐食といい、これは孔食の特殊な場合と考えられるが、異物付着による腐食機構は付着物が酸素拡散を妨げ環境側との酸素濃淡電池(通気差電池)を形成することによることなどが記載されている。そして、同報告書は、まとめとして、孔食は、中性溶液で発生し、PHが高くなると抑制され、PHが一一より大になるとほとんど発生しないとされているから、本件漏水事故の際SPフレキ内に滞留していた水のようにPHが一〇程度では孔食発生の確率は極めて低いこと、溶存酸素については、右滞留水のように一mg/l前後の濃度では孔食発生への関与は極めて薄いと思われること、塩素イオンも一〇PPM以下であり通常孔食の生じない濃度であることを指摘した上で、フレキシブルチューブ内面状況と腐食部位から付着物が主因であると推定される(すなわち、通水中のカルシウム、珪素等の固形成分と鉄イオンがアルカリ性によりコロイド状の水酸化鉄としてもっとも隙間の狭い一波目に沈析し、酸素濃淡電池を形成した可能性が強い。)と結論付けている。

(2) 以上認定の事実によれば、被告の子会社である東日本工機株式会社においてフレキ巻出し管の組立て製造の際溶接後の酸洗い等の処置は一切していないことからすると、これが隙間腐食の原因になったとも考えられるが、決定的な要因は不明であるというほかはない。

しかし、本件漏水事故からわずか一か月の間に矢継ぎ早に各種調査が行われたこと、平成四年一〇月二八日の時点で大成建設が被告製造にかかるフレキ巻出し管の使用を停止していたことからも、本件漏水事故は大成建設株式会社及び下請会社にとって重大事であったことが明らかである。

(3) 本件漏水事故の原因が何であるにせよ、被告の製品にその原因があると疑われ、大成建設株式会社が被告の製造にかかるフレキ巻出し管の使用を停止していたことは右(1)⑦認定のとおりであるから、被告商号が原告商号と類似しているため、需要者の間で、原告の製品が本件漏水事故の原因となり、大成建設株式会社によってその使用が停止されたと誤って受け取められたことによって生じたと認められる損害は、被告商号の使用と相当因果関係にある損害というべきである。

(イ) 《証拠省略》によれば、原告は、平成五年二月一六日当時、後藤設備工業株式会社から、NTT基町現場にSPフレキ八〇〇〇本を代金三〇八〇万円で納入することについて確約を得ていたところ、同年三月四日になって、突然、後藤設備工業株式会社の責任者から原告の製品の採用中止を通告されたこと、右採用中止は、後藤設備工業株式会社の責任者が本件漏水事故は原告が起こした事故であるとの情報を入手したためであること、原告は、同月一一日に右責任者に事情を説明して誤解を解いたものの、製品は既に五十鈴工業に発注することで承認を得ているのでもはや原告の製品に変更することはできないと言って断られたこと、そのため、原告は、右代金三〇八〇万円の二五パーセントに当たる七七〇万円の得べかりし利益を喪失し、これと同額の損害を被ったことが認められる。

被告は、後藤設備工業株式会社は平成四年九月の本件漏水事故の後である平成五年二月に被告の製品を採用しており、その際、被告は商品説明を行っており、このとき、原告の製品が株式会社オックスから販売されていること、その製品の内容及び価格について後藤設備工業株式会社から知らされており、同社は原告と被告を誤認混同しているということは一切なく、見積照会時にも原告と被告をはっきり識別していたと主張し、前掲乙第一〇号証(被告代表者の陳述書)には、右主張に沿う記載があるが、これを裏付けるに足りる証拠がないので、直ちに採用することはできず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(ロ) 《証拠省略》によれば、原告は、代理店を通して、SPフレキ販売業者のニトックス株式会社に原告の製品を納入していたところ、平成五年二月、同社は、本件漏水事故を原告の事故と誤解したため、既に原告に注文を出していた羽田ターミナル向け二〇〇〇本、代金三六〇万円分のフレキシブルチューブの注文をキャンセルしたこと、原告は同年四月、同社に対し、本件漏水事故は被告の事故である旨説明して誤解を解いたものの、同社は既に右キャンセル分を他メーカーに発注していたため、原告は、右キャンセル分の二五パーセント相当額の九〇万円の販売利益を喪失したことが認められる。前掲乙第一〇号証中右認定に反する部分は採用することができない。

(ハ) 《証拠省略》によれば、三機工業株式会社の熊本の工事現場の担当者が、大成建設株式会社による被告のSPフレキの使用停止を原告のSPフレキの使用停止と誤解して、原告の製品は使用できないと述べたため、原告の担当者は、平成五年一月一九日、誤解を解くため三機工業株式会社の右工事現場を訪れて説明することを余儀なくされ、そのため、原告は交通費七五〇〇円、六時間分の給料八四〇〇円、合計一万五九〇〇円相当の損害を被ったことが認められる。被告は、三機工業株式会社が原告と被告を混同することはない旨主張するが、前掲乙第一〇号証中右主張にそう部分は採用することができない。

(ニ) 《証拠省略》によれば、平成五年二月一八日、大林組から原告に対しSPフレキに関して問い合せたいことがあるとの呼出しがあり、原告の担当者が同社に出向いたところ、同社は本件漏水事故を原告が起こした事故と誤解していたので、この誤解を解くため説明することを余儀なくされ、原告は二時間分の給料四〇〇〇円相当の損害を被ったことが認められる。被告は、大林組はSPフレキを五十鈴工業と共同開発しており、原告、被告ともその製品が同社によって採用されることは少ないと主張するが、右認定の損害は本来必要のない経費を出費させられたことによる損害であるから、被告の右主張は当たらない。また、被告は、大林組の資材購入担当者において原告と被告の混同がないことを確認した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二) 被告の製品について被告と原告を混同した需要者から苦情や呼出しを受けたこと等による損害

(1) 《証拠省略》によれば、平成五年六月八日、被告が納入した製品(商品名「ハイポン」)の水漏れ事故について、原告と被告を混同したエイト産業株式会社から原告に対し、原告の製品の不良で水漏れが発生したとのクレームがあったので、原告の担当者が現場である西新橋共同ビルに行き調査することを余儀なくされたため、原告は三時間分の給料七五〇〇円相当の損害を被ったことが認められる。被告は、被告の製品にはすべて赤いシールで社名、マーク、電話番号等が表示されており、原告の製品にも金ラベルで同様の表示があるのであるから、原告と被告の識別は十分明確にできると主張するが、被告商号と原告商号の類似性からして、特に現場において両者を混同することは十分ありうるところであるから、採用することができない。なお、原告は、この際、代品として原告の製品(価格一万〇七五〇円)を納入しており、この点では利益を得ていることになるが、右損害発生の事実を左右するものではない。被告は、原告が被告に連絡せずに原告の製品を納入したとして非難するが、水漏れ事故発生のクレームを受けて原告の担当者が現場に行き調査しているのに、事故を起こした製品が被告の製品であると判明したからといって、水漏れをそのままにして修理せず、被告に連絡するだけにするというようなことは考えられない。

(2) 《証拠省略》によれば、平成五年六月一六日、段ボール製造機ドライヤー用蒸気配管ラインに取り付けた被告のフレキシブルチューブの破損について、日章紙工株式会社からリックス富士を通じて原告に対し、「ユニオン型フレキシブルチューブが取付けた後二日で壊れた。」との連絡があったので、原告の担当者が同社に行って調査し、交通費一万四〇〇〇円、六時間分の給料一万五〇〇〇円の経費を要したことが認められるが、《証拠省略》によれば、日章紙工株式会社の担当者が原告に連絡したのは、被告の製品に記載された被告の製品である旨の表示を見て原告の製品であると誤認したわけではなく、その直前の同月三日に原告の製品が別に納入されていたことを知っていたことから、壊れた製品はその際納入された原告の製品であると誤解したためであることが認められるから、右経費は、被告商号の使用により原告と被告との混同を生じたことによる損害とは認められない。

(三) 被告商号が原告商号と類似していることによるその他の損害

(1) 原告は、原告は昭和四八年三菱化成株式会社直江津工場に対し、原告の旧商号「株式会社東京フレックス製作所」の社名が記入された仕様の図面を添付して製品を納入したところ、同社は、右製品の取替えの時期が来たため同一製品を発注するに際し、被告と原告を混同して被告に右仕様の図面を送付して発注した旨主張し、甲第五一号証(原告名古屋支店長作成の平成五年四月二一日付営業報告書)によれば、三菱化成株式会社直江津工場では「東京フレックス製作所」名義の図面どおりということで商社の株式会社オグリに発注し、同社は原告でなく被告に発注したことが認められる。一方、《証拠省略》によれば、もともと三菱化成株式会社直江津工場には訴外会社が製品を納入していたことが認められるから、右の「東京フレックス製作所」名義の図面は訴外会社のものである可能性も否定できず、三菱化成株式会社直江津工場ないし株式会社オグリは被告を訴外会社と誤認して注文をしたとも考えられる。

しかしながら、仮に三菱化成株式会社直江津工場ないし株式会社オグリは被告を訴外会社と誤認して注文をしたものであるとしても、原告商号は被告が設立された昭和五二年八月当時には既に全国にわたって周知性を取得していたのであり、しかも、原告商号への変更後も「株式会社東京フレックス製作所」といえば原告の旧商号として原告を指すものと(換言すれば、原告は「株式会社東京フレックス製作所」が商号を変更した会社であると)取引者、需要者によって認識されているのであり(前記一2(一))、そして、三菱化成株式会社直江津工場としては、「株式会社東京フレックス製作所」名義の図面どおりということで発注したというのであるから、訴外会社が既に存在しない以上、被告の商号が「株式会社東京フレックス製作所」に類似するものでなかったならば、「株式会社東京フレックス製作所」が商号を変更した会社として認識されている原告に対し発注した蓋然性が高いものといわなければならない。したがって、三菱化成株式会社直江津工場から注文を得られなかったことによる損害は、被告が被告商号を使用したことによる損害ということができる。

その損害額について、右甲第五一号証には、被告が三菱化成株式会社直江津工場に納入した製品は発動機の修理部品であり、被告は、原告が株式会社オグリに対し仕様の図面に記載された「株式会社東京フレックス製作所」とは被告ではなく原告である旨説明して(右仕様の図面が仮に訴外会社の図面であったとしても、三菱化成株式会社直江津工場に当初納入した昭和四八年当時は、訴外会社は対外的には原告と一体の会社として営業を行っていたのであるから、かかる説明は必ずしも不当とはいえない。)原告の製品に切り換えてもらうことに成功した平成五年五月まで、一四年間にわたり、同工場に対し、年間八四万円分(一四年間で一一七六万円分)の製品を納入し、その二五パーセントに当たる合計二九四万円の利益を得ていたとの記載があるが、右納入額はあくまで原告による推測であり、これを裏付けるに足りる証拠はないから、右推測を参考に、原告担当者が株式会社オグリへ出張した経費相当分も含め、右記載の利益の二年分に当たる四二万円をもって原告の被った損害と認めるのが相当というべきである。

(2) 《証拠省略》によれば、平成五年七月三〇日、ユニ化工株式会社から原告に対し、原告の納入した製品に水漏れが発生したとの呼出しがあったので、原告の担当者が同社を訪問したところ、水漏れを起こした製品は被告の納入した製品であって、ユニ化工株式会社は、原告の製品(フレキシブルチューブ五本五万円分)を注文した(設計図面、機器リストもメーカー名は原告名義で承認されている。)にもかかわらず、中間に入った株式会社ナカシマが被告と原告を混同して被告に発注し、被告がこれを納入していたものであることが判明したこと、そのため、原告はフレキシブルチューブ五本五万円分の注文を失い、その二五パーセントに当たる一万二五〇〇円の販売利益を喪失するという損害を被っていた結果になること、また、右のとおり原告の担当者がユニ化工株式会社に呼び出され説明することを余儀なくされたため、原告は四時間分の給料一万二〇〇〇円相当の損害を被ったことが認められる。被告は、原告は自己の製品を原因とする漏水事故の処理を怠ったため株式会社ナカシマから取引を停止されたものであり、株式会社ナカシマは原告と被告を十分識別している旨主張するが、ユニ化工株式会社の注文に際しては設計図面、機器リストもメーカー名は原告名義で承認されたうえで注文がなされているのであるから、採用することができない。

(3) 《証拠省略》によれば、平成五年七月三〇日、トーセキ産業株式会社の責任者が購買担当者に大分発電所向けフレキシブルチューブを原告に注文するよう指示したところ、購買担当者は被告を原告と混同し、誤って被告に発注したため、原告の担当者は、誤解を解くために二日間にわたって交渉することを余儀なくされ、原告は一六時間分の給料三万二〇〇〇円相当の損害を被ったことが認められる。被告は、トーセキ産業株式会社から注文を受けたことはなく、同社の担当者に直接、同社において原告と被告を十分識別していることなどを確認した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

3  被告型式番号の使用による損害の具体例

(一) 原告は、需要者は、カタログ又は原告担当者との打合せにより使用条件に合った製品を選定し、違う商品が納入されないよう型式番号で特定した仕様書を作成するが、実際に発注するのは仕様書を作成する者ではなく、ほとんどが購買課など別の部署の担当者であるため、型式番号が同一であると、購買担当者が被告と原告を混同して被告に注文を出すとか、また被告と原告を混同しない場合でも型式番号が同一であることにより同一又は同程度の製品であると判断され、原告は、結果的に受注を失うか、不当な価格競争を強いられるという不利益を被ることになる旨主張する。

確かに、本件のように原告型式番号に商品表示性、周知性が認められる場合には、型式番号で特定した仕様書によって指示された購買課などの担当者が、同種商品にこれと同一又は類似の型式番号を使用している企業に注文を出すことはありうることと考えられる。また、メーカー(商品主体)の混同がなければ、型式番号が同一であるからといって、直ちに同一又は同程度の製品であると判断されるようなことは考え難いが、本件のように被告商号が周知性を取得した原告商号に類似している場合には、被告は原告の関連会社であるとの誤認と相俟って型式番号が同一であれば同程度の品質の製品であると判断されることはありうることと考えられる。

(二) そこで、原告の主張する具体例について検討するに、原告は、①株式会社荏原製作所に対し、毎年、品番「TF一六〇〇型二〇AX一WX四〇〇L」及び「TF一六〇〇型二〇AX一WX五〇〇L」の商品を各一万本納入していたところ、被告が同一型式番号を使用して、品質が同一であると虚偽の事実を告げ、安価に納入できると述べて不正競争を行ったため、原告は昭和六三年から平成五年までの間、同社からの注文を失い、右の六年間に合計一億二三四〇万円の注文を失い、その粗利益(二〇パーセント)に相当する二四八六万円の損害を被った、②川崎製鉄株式会社水島製鉄所連鋳整備課から、見積仕様書に「TF五〇〇〇X七〇〇〇、オメガチューブ」と明記された見積依頼を受けたが、右①と同様の同一型式番号を使用した不正競争によって被告に合計二〇三万円の右注文を奪われ、その粗利益(三五パーセント)に相当する七一万〇五〇〇円の損害を被った、③新日鉄八幡、東京製鉄九州工場、住友金属小倉等の優良企業との納入契約につき、毎年初めに型式番号ごとの単価を決定(単価契約)して行う方式を採っているが、被告から右①と同様の同一型式番号を使用した不正競争を挑まれたため、新日鉄八幡については平成元年から二〇パーセントの値引き、東京製鉄九州工場については平成三年から三〇パーセントの値引き、住友金属小倉については平成二年から一〇パーセントの値引きを余儀なくされ、その結果、平成五年末現在で新日鉄八幡について一五六〇万円、東京製鉄九州工場について二一六万円、住友金属小倉について六四八万円の損害を被っている旨主張し、《証拠省略》にはこれに沿う部分もあるが、右証拠中、被告が同一型式番号を使用して品質が同一であるとの虚偽の事実を告げ、安価に納入できると述べたが故に原告が注文を失いあるいは値引きを余儀なくされたとする部分は、前示のとおり被告の製品が原告の製品より一般的に性能等が劣ると断定できるだけの証拠がないこと及び乙第一〇号証、被告代表者の供述に照らし、採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

4  損害額のまとめ

以上によれば、原告の被告に対する損害賠償請求は、2で認定した損害((一)(3)の(イ)七七〇万円、(ロ)九〇万円、(ハ)一万五九〇〇円、(ニ)四〇〇〇円、(二)の(1)七五〇〇円、(三)の(1)四二万円、(2)二万四五〇〇円、(3)三万二〇〇〇円)の合計九一〇万三九〇〇円の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである(但し、(二)の(1)の七五〇〇円は平成五年六月八日、(三)の(2)の二万四五〇〇円は同年七月三〇日、(3)の三万二〇〇〇円は同年七月三一日に生じたものであって、いずれも本件訴状送達後のものであるから、遅延損害金は右各損害の発生の日から付するのが相当である。)。

第五結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 本吉弘行)

〈以下省略〉

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